財政も健康もむしばむタバコ利権

池田 信夫

民主党が、復興増税の中からタバコ増税を除外する方針を打ち出した。「タバコ農家を守れ」と自民党が反対しているためだ。谷垣総裁はJT株の売却にも反対し、「JT株を売却すると葉タバコの全量買い上げができなくなる」と公言した。

JTと契約している全国の葉タバコ農家は1万800軒。その既得権を守るために2.2兆円のタバコ増税をやめるというのは、驚くべき意思決定である。これによって復興増税の財源が2割減るので、所得税の増税幅が1.5%ポイント増える。


ニューズウィークでも紹介したように、日本のタバコ価格は昨年の増税(1本3.5円)でアメリカとほぼ同じになったが、今でも先進国で最低グループである。今度の増税(1本2円)でも1箱500円になる程度で、欧州の平均ぐらいだ。

昨年の増税で1割ぐらい喫煙者が減ったといわれているが、今度の増税でさらに1割減れば、年間13万人にのぼるタバコによる死者が、長期的には1万人ぐらい減る効果が見込める。健康被害にほとんど影響のない原発事故の除染に何兆円もかけるより、はるかに費用対効果の高い政策だ。

  1. 1万軒のタバコ農家の収入

  2. 死者ゼロの原発の放射能
  3. 年間13万人が死亡するタバコのリスク

このうち、どれが社会的にもっとも重要な問題であるかは、いうまでもないだろう。しかし自民党にとってはタバコ利権にからむ1が大事で、マスコミにとっては「おもしろいネタ」になる2が大事だ。3はいくら大きな問題であろうと、票にもニュースにもならないので無視される。

野党に転落してもわずかなタバコ利権にしがみつく自民党も救いがたいが、それに妥協する民主党も似たようなものだ。このような愚かな政治家を許しているのは、朝日新聞を初めとする愚かなマスコミと、彼らに踊らされる愚かな国民である。