大阪都構想とユーロ危機

藤沢 数希

大阪ダブル選挙が11月27日に行われた。市長選挙は大阪維新の会代表の橋下徹氏が圧勝、大阪府知事選挙も大阪維新の会の幹事長の松井一郎氏が圧勝した。この大阪維新の会の目玉政策が大阪都構想である。具体的な案はそれほど明らかではないが、地方分権を推し進め、大阪経済圏をひとつの主権国家のようにすることを橋下氏は目論んでいるようだ。筆者は拙著「日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門」にもくわしく書いたが、地方分権には賛成である。


各地方が政策競争を行い切磋琢磨していくべきだし、地方の方が当然だが自分の地域のことはよくわかっているので、霞が関が全てを統制するよりも行政が効率化するだろう。しかしながら、ヨーロッパで起こっているユーロ危機を見ると、地方分権というものに対するひとつの疑問が浮かび上がってくる。すなわち通貨が共通で、財政政策が各地方でバラバラであるという状態がはたしてサステイナブルなものか、という疑問である。

ユーロという単一通貨が導入され、必然的に金融政策はユーロ圏で共通となった。共通の通貨が流通するが、それぞれの国には依然として主権があり、徴税や予算編成は各国がそれぞれ決めることになる。その結果、ドイツのように非常に勤勉に財政規律を守る経済大国と、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、ポルトガルのように、ユーロの信用を利用して莫大な借金を積み上げ、そして破綻するような国が共存することになる。そして結局、ドイツがこれらの破綻国家の面倒を見る羽目になった。

このユーロというのは、地方分権が進んだひとつの共通通貨圏として見ることも可能だ。日本で地方分権を推し進めて、たとえば大阪都や中部州が徴税権も、予算編成権も持ち、円という共通の通貨を利用するとなると、それはユーロとそっくりの構造となる。すなわち共通の金融政策と、各地域でバラバラな財政政策だ。実は、アメリカの連邦政府も、各州がユーロ圏のギリシャやイタリアのようなひとつの国で、それらが集まって合衆国を作っていると見なすこともできる。そうすると、アメリカの中のギリシャはどこなのか? 財政破綻しつつあるカリフォルニア州がアメリカの中のギリシャという見方もできよう。

マイケル・ルイスの”Boomerang: The Meltdown Tour“を読むと、アメリカの多くの自治体が破綻しつつあることがわかる。なかには警察官や消防士を半分にした自治体もある。その結果どうなるのか? 金持ちは豊かな州に引越し、経済的にそうすることができない人々が、財政破綻しつつある州に残ることになる。そういう人たちは、失業手当などの社会保障費が余分にかかる傾向にあるので、貧しい州はますます財政が悪化することになる。要するに、豊かな州と貧しい州が生まれ、その差は加速度的に広がる可能性があるのだ。

地方分権は、確かに日本が進んでいく道であるとは思うが、その制度設計はそれほど簡単ではないのかもしれない。日本のどこがギリシャになり、どこがドイツになるのだろうか。そしてあなたの家族の中にも内なるギリシャはいるのかもしれない。