遺伝子組み換え食品に関する議論に求められる2つのこと --- 元木一朗

アゴラ編集部

TPPで農産物の輸入が注目されたことと、今月から遺伝子組み換えパパイヤの輸入が解禁されたことから、遺伝子組み換え食品に対する関心が高まりつつある。しかし、ネットを見ていると、トンチンカンなことが書かれている場面に出くわすことが少なくない。

先日、BLOGOSにこんな記事が掲載された。

「モンサント=ガン」 米国のシェフが警鐘鳴らす遺伝子組み換え

内容には多くの問題があるが、例えば「DNAを操作された種子には石油ベースの殺虫剤が入っており」などという記述はトンデモの部類に入るようなものである。他にも「化学物質が水、食物、土地を汚染する」「継続して食べると体に毒が回り病気になる」「遺伝子組み換えされた作物のタネは一代限り」「世界最強を誇る自社の除草剤」など、多くの問題・疑問がある記事だ。


また別の例だと、日経ビジネスオンラインにはこんな記事が掲載された。

遺伝子組み換えパパイヤ、買いますか?

こちらもかなり残念な内容で、「飼料用の穀物としてGM作物はたくさん日本に入ってきた」「身近な食物になったらどうだろうか」など、事実誤認が含まれている。実際には、もうすでに私たちの口に入っているし、十分に身近な食物になっているのである。

さらに岩上安身氏も、ツイッターで遺伝子組み換え作物の導入について「生物多様性の破壊」と、これまた疑問が残るつぶやきを書いている。

生物多様性という観点では、遺伝子組み換え作物は一般の農作物とほとんど変わりがない。

こうして俯瞰してみると、ジャーナリストや記者であっても、遺伝子組み換え食品(農作物)に関する知識は相当に貧弱であると言わざるを得ない。これでは、遺伝子組み換え食品に関する議論などは無理だ。有益な議論のためには、最低でも次のようなことを知っておく必要がある。

1.遺伝子組み換え作物はトウモロコシ、ダイズなどで非組み換えよりもずっと作付け率が高い
2.日本にも食用として遺伝子組み換え作物が輸入されており、異性化糖、植物油、乳化剤などとしてお菓子、清涼飲料水、菓子パン、その他の食品に利用されている
3.多くの遺伝子組み換え作物由来の食品添加物には表示義務がない
4.遺伝子組み換え作物は特定の害虫や農薬に強いだけで、生態系への影響は一般の農作物と大きく変わらない

多くの人が知らないのは、「もうすでに大量の遺伝子組み換え作物由来の食品が身の回りに存在し、それらを拒否するなら、日常生活に大きな支障をきたす」という現状だ。例えば、どうしても組み換え作物由来のものが嫌なら、「甘みのあるジュース」は、大塚製薬のものを除いてほとんど全てが飲めないと予想される。

遺伝子組み換え食品に対する関心が高まったのは非常に良いことだと思うし、特にイネの組み換えに対してどういう姿勢を取るべきかなど、今後は国民的な議論も求められるはずだ。だからこそ、最低限の知識は必要なのである。

国も企業も「反対運動への対応が面倒なので、隠しておこう」「気がついたら食べていました、という状態になっていると都合が良い」と考えてきた部分も少なからずあると思う。しかし、もういい加減、きちんとした情報提供がなされるべきだろう。ただ、上にもあげたように、ネットの情報を見ても「間違った知識」が溢れているのが現状である。こうした中では、「正しい情報」を取り出してくるのは至難の業である。

そこで、いくつかの目立つ勘違いについて、「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」というFacebookページにまとめておくことにした。内容別のリンク集はこちらに用意したので、参考にして欲しい。

放射線の低線量被曝のように、科学的な知見が不十分で、科学的な検討が難しい事象もある。しかし、遺伝子組み換え食品は、それに比較すればずっと科学的な検討が可能である。

一方、科学的に問題がないとしても、「食べたくない」という感情は尊重されるべきだし、「食べない権利」は守られるべきだと思う。科学の名のもとに安心を強要されることは、正しいことではないはずだ。

大事なことは、議論に参加するみんなが最低限の知識を持っていることと、議論に参加する人が、自分の主張が科学ベースなのか、感情ベースなのかを自覚することだと思う。

元木一朗
株式会社ライブログ 代表取締役CEO

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