放射能に対するぼくのあいまいな態度の理由と隠蔽の独特の臭い --- モーリー・ロバートソン

2012年01月07日 18:05

ぼくは原子力や核について、多くの人がいらいらするような言動を繰り返してきた。
その片鱗は有志によってTogetterにもまとめられている。3.11以前、2011年2月にツィッター上で坂本龍一氏に上関原発の工事強硬に関する通知を受けたときには逡巡し、結局関わらないことを選んだ。

@skmt09
skmtcommmons
@gjmorley モーリーどの、こっちも大変みたいよ。上関、闇夜に急襲だって。(live at http://ustre.am/tIE8)
#kaminoseki

※坂本氏のツィートへの直リンク


また、3.11直後に欧米メディアが日本の政府・メディアよりも踏み込んだ報道をしたときには、少し強めのものを翻訳して拡散した。この行為は「パニックを助長する」として強い非難を受けたので、そのまま黙って名古屋まで逃げた。しかし自国のアメリカ政府(そう、ぼくはアメリカ人であり、英語も話せるのだ — Yes, I can actually speak English. Sometimes fluently. Many of my thoughts are expressed with greater clarity in English, but I try to be as balanced a bilingual as there ever was. )がアドバイスをしたように「南日本に避難する」というところまではやらなかった。あくまで自分の情報収集プロセスや判断に至る手順を優先し、最終的には直感で決めてしまった。その直感も社会的に制裁を受けそうなものであれば黙って身内だけで情報を共有した。

ぼくは今後よほど状況が変わらない限り、脱原発・反原発のデモには参加しないだろう。反対に安全宣言が出されるや、「より堅牢な次世代型の原子炉建設を急げ」といった楽観論を展開することもないだろう。そもそも、危険なのか危険じゃないのか、それもよくわからない。リスクを理解するために専門家の話を聞いたり読んだりしても、それがわからない。わかっていないことをはっきりと自覚していて、その点では自分に嘘をついていない。だから、この1年近くはただに不安と同居してきた。

放射能への恐怖、低線量の放射線への継続的な被曝がもたらす将来のリスクに関する不安。この不安は存在する。周り中の人間もそれを共有している。ただ同時に、パレスチナや中東の国、あるいは「foreclosure = ローンが払えなくなった家の差し押さえ」が常態化している現在のアメリカに住むよりもはるかにリスクが少ないことだという実感もある。日本がこれほど危険になったはずのに、自分にとっては相変わらず世界屈指の快適な生活環境であり続けている。そして冬の寒さの中で、日本海の寒ブリはものすごくうまい。倍の金額だと倍のうまさだ。瀬戸内海の魚もうまい。放射能が海洋づたいに瀬戸内海まで入ってきて検出されたという報道も読んだ。その後、そんな報道がなかったかのように、経済的に可能なだけ食べた。本当は岩牡蠣が食べたかったのだが、不況下で収入が減っているため、カキフライにしておいた。2月に入ると寒ブリの味は、ぴんとくるぐらいに落ちる。だから食べるのなら、今が勝負なのだ。寒ブリがうまい日本からスモッグまみれの中国沿海部に移住したいという気は、起きない。奄美に移住する欲求も起きない。相変わらず自転車で台東区の平地を行ったり来たりしつつ、オーガニックなものを食べるようにしている。マクドナルドには、近づかない。

自分の無知の知と付き合い、独特のバランス感覚を養う日々だ。ツィッター上でこの見地から生の発言をしてしまうと、脱原発・反原発陣営の皆様に思い切り叩きがいのある素材を提供してしまうことになるため、じっとしている。だが同時に脱原発・反原発の人々が日々どういうところに情熱を燃やし、次にどんな行動を取るのか、そろそろ原理主義者と穏健派の内乱が勃発するのか、政府や政党、マスメディアはこれにどう反応しているか、東アジアの国々やロシアはこれをどういう機会ととらえているか、欧米の国々はどう反応するかにも注目している。それはぼくが国際ジャーナリストを自称しているからだ。大きな声では言わないが、自分の判断に至るまでの物差しには大胆なまでに自信を持っている。そこで、この記事ではこの物差しの内訳を紹介してみよう。

まず、新しい情報に常に接し、それらを個別に吟味するということを反復している。そしてそれぞれの情報源・報道そのものにどれほどのバイアス(偏向)がかけられているかも、先回りして勘定に入れる。例えば最近では週刊文春がにわかに脱原発にブランドを賭けた。対して週刊新潮は原発容認または推進に張っているかのように見える。しかし両方の出版社とも原発アレルギーに便乗して短期的に売りぬけ、どちらも解決しようがない出版不況の最中にささやかな焚き火の暖を取っているだけにも見える。

次に、流されている情報がどういうところを狙っているのかを推理しながら、個々のアイテムを吟味する。99%が素人の状態で原発パニックが進行している以上、どんな報道をしてもそれはどちらかの陣営、あるいは両方の陣営がプロパガンダの材料にする。それをわかっていて営利目的でニュースが配信される。だから、記事の書き方にエンベッドされたシグナルを探知しようとする。レバノン内戦の中で、「善意の人道介入」を期待するのと同じようなものだと思っている。キリスト教ミリシアは国家が守ってくれないマイノリティーを防衛しているのかもしれないし、ムスリムを虐殺しているだけなのかもしれない。自分がどの宗派にいるのかによって視点がまったく変わってしまう、そんな状況だ。

その次に、ソースの利用法を見ている。最近のニュースや過去にさかのぼった文献がどの陣営の人たちにどのようにネット上で引用され、流されているかを検討する。引用の仕方がまちがっていたり、そもそものソースが理解されていない(誤訳や意図的な誤訳含む)場合も可能性の範疇に入れる。情報源には背後関係はあるか。たとえば原子力業界が自ら選んだ専門家による調査結果か。あるいは脱原発で商売をしている人の研究成果なのか。その専門家は他に陰謀論めいた本を出した過去がないか。それぞれの研究発表では、何が発表されていないのか。科学の無謬性が過剰に振りかざされていないか。隠蔽やミスリードを目的として研究がなされたのか。旧共産圏からの情報か。日本の大手メディアは扱っているか。日本のメディアだけが扱わず、欧米メディアは扱っているか。イランの国営通信あるいはロシア・トゥデイだけが報道していることか。

核物理学や疫学や統計の概念を理解していない目でこういった文献を目にするから、集中力もそれほど続かない。さらに、脱原発を想定したシナリオで何兆円単位の経済ロスがあるのか、火力に依存し切った場合は何年ほど継続可能なのか、日本の製造業と雇用が完全に海外逃避をするのかどうか、昭和40年頃の生活に戻ってどの程度乳児が死亡するのか、なども、経済学を理解していない自分に正直なまま、検証する。文字が読めない人間が契約書を見せられたときに状況を判断するのにも似て、危険をはらんだプロセスだ。

しかし、手がかりもある。情報が隠されるときには手順があり、独特の匂いがするのだ。中国政府が人権問題や公害問題、チベット問題に関して情報統制を敷くときには一定のパターンがあり、そのブラックアウトから情報がリークするときにも信頼できる経路と信頼できない経路がある。たとえば法輪功のメディアや天安門事件に関わった亡命活動家が提供している情報は、あやしげである。一方、最近では個人の告発が翻訳されて英語のツィートとして出回り、図星だった事例も多々ある。このように隠蔽がなされるときの定石、隠蔽をくぐって事実がリークするときの定石を多少わかっていると、原発の問題に関する情報を咀嚼する際にも流用できる。

さらに、自分の中で結論を出したいという欲求を見つめ、それに溺れないようにする。たとえば去年の年末に大きくなったオリンパス関連のニュースでは、最後まで「FACTA」を疑い続け、欧米メディアに度々書かれた「山口組が関係した可能性」をおいしい仮説として泳がせながらも飛びつかず、ドキュメンタリー「原発ジプシー」の中で告発されている「暴力団の手配師がホームレスを原発に派遣し、被差別部落出身者がだまされてハイリスクの作業に勧誘され、癌になっても原発側は知らんぷりをしている」という情報もおいしそうだったけどそれほど飛びつかず、瓦礫撤去の利権が自治体で巨大化しているという記事を見た時も「やっぱりヤクザ」とのツィートを、飛ばしたくなっても飛ばさずにいた。そしてヤクザと原発を大いに結びつけるマイケル・ムーア級のすっぱ抜きが出てくるのをひたすら待った。今も待ち続けている。やたらと待つことが多い。「結論を素早く出し、行動で世の中を変える」という方法論をアクティヴィズムと呼ぶなら、ぼくがやっているのは「自分で出そうとしている結論を自ら疑い、プロセスを磨いていく」だけの方法論だ。ヒマラヤを上って霊験を得ようとする人に対して、ただひたすら坐禅を組むほど違う。

モーリー・ロバートソン/Morley Robertson
office morley
@gjmorley
プロフィール

編集部注:今回の論考は、その2「バズビー氏の疑惑を暴く~全てを疑えというリテラシー」へ続きます。


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