平均が分からない大学生から、放射能騒動を考えてみる。

生島 勘富

入学して間もない大学1年生を中心に数学的素養がどの程度身に付いているか調べた結果、4人に1人が「平均」の意味を正しく理解していないことが24日、日本数学会の「大学生数学基本調査」で分かった

各紙で報道されましたが、その多くは「ゆとり教育の弊害」と結論づけていました。しかし、今回のテストは始めてということですから、「ゆとり教育の弊害」とは言い切れない。私のイメージとしては、何十年も前からそのぐらいの割合で理解していない人がいるのではないかと考えています。

その理由は、放射能に対しての数字のとらえ方があまりにもズレている人が多いためです。


■古い例ですが、青酸カリと比べてみましょう

「セシウム137の致死量は0.1mgで、青酸カリの致死量は200mg、セシウム137は青酸カリの2000倍危険」「畑に青酸カリが撒かれたのと同じ」という煽り文句が広がりました。

この煽り文句は、そもそもの「セシウム137の致死量は0.1mg」という前提が間違っているため、全く意味のないものですが、仮に正しいとして水道水の基準値で比較してみましょう。

青酸カリとセシウムの水道水の基準値

表の通り、青酸カリと同じ比率でセシウム137の水道水の基準値を決めれば、10,000ベクレル/kgでも厳しすぎると言えます。(青酸カリにも急性と慢性の害があります)

「水道水から青酸カリが検出されるなんてあり得ない」と思われるかも知れませんが、青酸カリ(シアン化合物)はメッキ工場などで使用される一般的な化学薬品で、決して珍しい物ではありません。そのため、実際に水道水や地下水から検出される事件は起きています。例えば、数年前、伊藤ハムの工場で使用されていた地下水から基準を超える青酸カリ(シアン化合物)が検出され自主回収するという騒ぎがありました。

今回の事故で放出されたとされるセシウム137の量は僅か2kgほどですが、青酸カリと同等の青酸ソーダは、日本だけで年間約3万トンも生産・消費されています。

このように、水道水の基準値や年間生産量など、比較対象になる数字を隠蔽し、感情的に見える片側の偏った数字だけを取り出して大騒ぎし、自身の主張(商売)に結びつけているのが反対派が行っている手口です。

■セシウム137の致死量

セシウム137を0.1mg摂取すると50年間で4,000mSv(4Sv)の被曝することになります。一瞬で4,000mSv(4Sv)の被曝をすると50%の割合で亡くなることになりますが、時間を掛けて累積で4,000mSv(4Sv)の被曝をしても亡くなることはありません。

例えば、キュリー夫人は放射線による白血病で亡くなりまた。しかし、被曝量は4,000mSv(4Sv)というような少ない量ではありません。当時は放射性物質の危険性が知られていませんでしたから、生涯を通じて何の防御も行わず放射性物質の研究を続けていました。キュリー夫人が使っていたノートなどは、現在でも防護服なしでは閲覧することができないほどで、生涯被曝量は200,000mSv(200Sv)と言われています。

キュリー夫人の例からも、もちろん、「セシウム137の致死量が0.1mg」とは言えないでしょう。一瞬の被曝での放射線の致死量と、50年間の累積の被曝量を比べているので全く間違いです。

しかし、「どれぐらいが致死量なのか?」という問いには、当たり前ですが、人体実験ができない以上、「分からない」としか答えようがありません。

■ネッシー・やせ薬

詐欺的商売人は、真っ当な科学者が「分からない」としか言いようがないことを利用してつけ込んできます。

「分からない」ということは「セシウム137の致死量が0.1mg」は間違いと言い切れないので、レベルの低い議論に持ち込めば勝てなくとも負けることはありません。

例えば、ネッシーがいないことも、雪男がいないことも、証明はできません。いないことは証明できませんから、真っ当な科学者は「いる可能性は極めて低い」とか、「いるとは言いきれない」とか、奥歯に物が挟まった言い方しかできないのです。

やせ薬にしてもそうです。1日に1gほど痩せる効果があったとしても「効果はある」と言えます。誤差に近い極僅かな効果でも、科学的には「効果はある」のです。

権威のある学者のこれらの発言は、詐欺的商売人にとっては非常に好都合になります。「分からない」は「つまりはある」と言えるし、どれほど僅かでも「効果がある」と言える。それに権威付けされたのと同じことになります。

「ネッシーがいる」と主張するのは、余程のロマンチストか、それで商売をしている人に限られます。放射能についても全く同じでしょう。「害があるか分からない」は「害がある」になり、ごく僅かにあっても「大変だ!検出された!」というのは、「ネッシーがいる」というのや、「xxxで痩せる!」というのと大差ないのです。

■感情で判断するなら……。

反対派のジャーナリストや活動家の中には、その主張を読む限り「平均の意味が分からない」レベルの人も多いと考えられる。意味が分かっていたとしても感情に流されている人も多いし、確信的詐欺を行っている人もいます。

一方、政府や電力会社は、確かに、隠蔽や捏造をしてきましたから、信用できず、反対勢力の主張が正しいと考えてしまう人もいるでしょう。

しかし、放射性物質は物理の法則通りに動作しますから、感情を交えて「騙す人だからウソに違いない」などと考えることは無意味です。放射性物質には「信用できる人かどうか」は関係ないので、「政府は信用できない」「電力会社は信用できない」「御用学者は信用できない」と考えている時点で、「既に騙されている」と言っても過言ではありません。

「既に騙されている」タイプの人は、「平均の意味が分からない」という25%ぐらいは存在すると感覚的に思いますし、そういう数字に対するリテラシーの低い人は、割合は分かりませんが確実に存在しています。「既に騙されている」タイプの人が騙されないためには、一旦、冷静になって理論的に考えるか、全体を見てから判断するしかありません。

まずは、なぜ、政府や電力会社が「不正をしてまで」原発を推進してきたか考えるべきです。

去年、あれだけ節電したにもかかわらず、3兆円も余分に燃料費を資源国に支払いました。すべての原発を止めれば4兆円は必要で、円安になったり化石燃料が高騰すれば、更に必要になるでしょう。それがどれぐらいの金額かというと、消費税1%で2兆円前後なります。消費税であれば国内の様々なサービスや設備に変わりますが、残念なことに、余分に必要となった燃料費は、札束を燃やしてCO2に変えて排出しただけに過ぎません。

政府や電力会社が、反対派を抑えるため隠蔽や捏造も行って、一部を自分の懐に入れたり、天下り先を作ったりしてきたのは事実ですが、本当の目的は、何兆という札束を燃やすことを防ぐための原発であり、十分に貢献してきたと言えます。

不正に使われた金額は、我々の財布のスケールから比べれば大変な巨額ですが、4兆円を燃やすことから考えれば誤差に過ぎないでしょう。

一方、反対派のジャーナリストや活動家の手口は、「退職金十億円」とか、「青酸カリの2000倍の毒性」という煽り文句のように、比較対象の数字を隠蔽し(ときにはセシウムの致死量のように、意図的捏造もやっている)、読んだ人が、自分のスケールで考えてくれるように仕向けています。隠蔽や捏造という意味では、政府や電力会社と全く差がないのです。

ですから、騙されないようにするには、結果から両方を比べて

    「(何十~何百億を)不正に使いながら、毎年4兆円の国富を燃やすことを防ぐ」
        (不正は正せば良いし、正されつつあります)
    「書籍や講演で数千万円の利益を個人的に得るために、毎年4兆円の国富を燃やす」

どちらが良いか考えてみれば良い。

金で命は買えないけれど、4兆円あれば助かる命はたくさんあるのです。

株式会社ジーワンシステム
代表取締役 生島 勘富
(Twitter @kantomi