首相公選制について:「維新の会」を研究する(2) --- 田原 健央

2012年03月17日 10:49

前回の記事では首相公選制のメリットについて解説しましたが、もちろん問題点も指摘されています。


例えば、次のようなものです。

問題点(1):衆愚政治になる可能性があること
首相公選制にすると、例えば実はアホで大して能力もないのに知名度だけある人が首相になりやすくなってしまったり、そうでない人が首相になりにくくなってしまう可能性があります。

問題点(2):ねじれがおきがちなこと
首相公選制だと、首相を選ぶ選挙と国会を選ぶ選挙が別々になります。このため、例えば「国会は民主党のほうが多いのに、首相は自民党出身」みたいな首相と国会内の与党が違うねじれ現象が起きてしまい、首相と国会がケンカして政策をきちんと実行できなくなってしまう可能性があります。

問題点(3):天皇制との両立でリスクがあること
首相公選制では、首相は私たちに直接選ばれます。つまり、「首相=私たちが選んだリーダー」になります。このため、首相は指導者として強い正当性を持つことになります。このため、潜在的に天皇陛下の立場と競合してしまい、おそれ多くも陛下の立場を奪ってしまうのではないかという指摘があります。

ただ、上記の点については以下のような指摘もあります。

問題点(1)に対する指摘:
そもそも国会議員が内輪で選んでる今のシステムでもこれにかなり近いことは起きているので、今のシステムの方が必ずしも優れているということにはなりません。大切なのは、ちゃんとした人が当選するようにするような仕組みづくりをすることです。
具体的には、例えば次のようなものがあります。
・候補者になるための試験や面接を行う。
・予選制度を導入する。例えば「一回目の選挙で首相候補者を何人かに絞り、二回目で決選投票をする」など。これによって、私たちも少し冷静になって選ぶようになります。
・首相候補者が発表されてから首相選挙までの期間を長くする。これによって、私たちが「首相候補者ってどんな奴らなんだ?」と冷静に考え、きちんと分析し選ぶ余裕が生まれます。

問題点(2)に対する指摘:
ねじれは確かに問題ですが、日本の地方自治体は公選制です(知事や市長は選挙で選ばれています)。そして、首長と議会の間でしょっちゅうねじれ、対立しています。では、地方議会はどうやってねじれを解消しているかというと、議会と知事がガチンコで戦うときと、折り合うときをうまく使い分けています。これで実際そこそこうまく行っています。

もちろん地方と中央は違うので単純な比較はできませんが、仮に中央であったとしても、本当にどうしようもなくなったときに備え、例えば首相側に従来通り議会の解散カードを、議会側に内閣ではなく首相個人の不信任決議権を付与しておき、安易に発動できないよう条件をつけるなどすれば、十分乗り越えられるのではないでしょうか。

(なお、よく「首相公選を導入したイスラエルはねじれで失敗したじゃないか」と言われますが、イスラエルを首相公選制の失敗例として扱うのは必ずしも正しいとは言えません。同国がねじれたのは首相公選制のせいというより、同国が採用している比例代表制とそれに伴う小党乱立のほうに根本的な原因があるからです。もし当時のイスラエルが比例代表制を採用しておらず、また前述のような制度をきちんと作っていたらうまくいっていた可能性は十分あります)

問題点(3)に対する指摘:
これについては、日本には征夷大将軍という例があります。かつて征夷大将軍が日本の実質的な最高権力者だった時期にも天皇や皇室は存在していました。そして、征夷大将軍は天皇の権威を認め、天皇から世俗世界の権力をもらうという形で、日本の統治を行っていました。権威と権力を分けるという点については、日本には長い伝統があります。そして、この点は現代でも変わっていません。

首相公選制にすると、征夷大将軍的な立場の人を私たちが直接選ぶことになりますが、それでこの伝統がなくなる可能性は非常に低いです。

例えば、首相就任時の小泉氏や民主党政権が始まった時の鳩山氏は、一般の人からもものすごく高い支持を得ていました。公選であっても彼らは選ばれていたでしょう。だからと言って、当時の小泉氏や鳩山氏が天皇陛下の権威を奪ったり傷つける可能性があったと考える人はほとんどいないはずです。権威と権力は日本では全く別物なのです。もしそれでも心配なら法令で明文化すればいいだけの話です。

では、もし仮に首相公選制を導入するとしたら、どうすればいいのでしょうか。これについては、次の3つのような趣旨の案が以前から提案されています(なお、よく「首相公選制を導入するには憲法改正が必要だ」と言われますが、実は憲法改正は必ずしも必要ありません。例えば、下記の案3は憲法を改正しなくても実現できます)。

案1:ガチな首相公選制度案
首相と副首相が立候補して、国民が直接選挙します。任期は4年です。衆院総選挙も同時に行います。

案2:今の制度を維持しつつ、首相公選制度を導入する案
衆院選の際に各政党に首相候補者を明示させるルールを作ります。そして、衆議院選挙を首相指名選挙として機能させます。これは現行制度に近いものです。例えば、2009年の衆院選は事実上、自民党の麻生氏と民主党の鳩山氏のどちらを首相に選ぶかという意味を含んだ選挙でした。

案3:政党(野党第一党と与党第一党)内での党首選出手続きに、国民全員が参加できるようにする案
政党同士で話し合って党則を改正し、国民全員が党首選出の選挙に参加できるようにします。具体的には、民主党や自民党の党内の選挙に、私たち全員が投票できるようにしようというものです。これで実質的な首相公選制が実現します。

首相公選制については以上になります。
なお、2002年の「首相公選制を考える懇談会」報告書はよくまとまっています。文章はかためですが、ご興味がある方はご覧ください。

次回は道州制について解説します。

(本文について私の認識違いや勘違いなどもあるかもしれませんし、今後ご意見をいただく中で考えが変わるかもしれません。さまざまな方から学び考えを深めたいので、ご意見、ご批判等、お気軽にご連絡いただけたら幸いです)

田原 健央
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