なぜ日本のマスコミはITに弱く、新しい時代を作れないのか

新 清士

なぜ、既存のマスコミと呼ばれる報道機関は、ITのみならず科学関係の情報に弱いのだろうかと、不思議に感じることがある。

よく言われるのが、法学部といった文系出身の記者が多く、また、会社内のピラミッドの頂点が、政治部の記者が中心になっているため、そもそも科学やIT系の情報を、長期的に取材を続けている記者が少ない点にあると言われている。また、数年ごとに配置転換が起きるために、それも特定業種の専門家を育てにくいという話も聞く。

■ググればわかるような事前取材が不足


私自身、ゲーム関係を中心としたジャーナリストを生業にするようになって10年になるため、その分野では、専門的なジャーナリストという位置づけで認知されるようになってしまった。

ゲーム系でも、おもしろい人はたくさんいる。私自身はいつの間にか、ゲーム産業のビジネスについて追いかける担当みたいになってしまい、そういう話を中心に書くことが多い。

そのため、ゲーム系で新ハードが発表になったり、社会問題が発生すると、よく一般マスコミの記者の方から問い合わせを頂く。ところが、ググれば転がっている情報でも事前に調べることを、あまりにしていないので、愕然とすることがある。

■今の時代、大手マスコミとフリーが争える理由

また、既存マスコミの方の特徴は、日本国内しか見ていない。ITの分野は日本だけを追っていたのでは、全体像が見えない。動きは非常に早く、世界全体が影響を与えながら進行している。そのため、海外情報も追う必要がある。しかし、あまり考慮されない。

大手マスコミに属していないで、フリーランスで活動をしていても、ゲーム分野では大手マスコミと互角以上に争える。記者クラブ云々は関係なく、かなり一次情報に近い情報を集めることが難しくないためだ。

ゲームそのものは必要があれば買ってくれば良い。決算のカンファレンスは、日本海外を問わずIRページに発表されている。任天堂のように決算発表会の動画を配信するだけでなく、発表と同時に全文文字起こしした内容を公開する企業もいる。

海外のカンファレンスも大量にネットにありかなり追える。アメリカ企業の場合は4半期ごとの電話による発表は聞くことができるし、全文文字起こしされるので、必要に応じてそれを参照すればいい。

足を使って取材をする必要性もあるが、専門カンファレンスに参加すれば、書ききれないほどの量の情報が取れ、その上で、現地企業の人たちと情報交換を行えば、仮説の検証や裏付けが取れる。

しかし、Webマスコミと同じく、個々のジャーナリストの収入は厳しい。

■広告収入だけでは厳しい日本のITメディア

一方で、日本のIT系のジャーナリストの立場は弱い。特に日本ではその傾向が強い。ゲームサイトから始めて、最終的にはFinancial TimesNew York Timesのような大手メディアで専門家として認知を受けて、書く機会を得るようなキャリアパスは稀である。

これが大手マスコミでIT専門のニュースが流れにくい一つの要因にもなっている。ITに関することは、一般の読者に簡単に説明することが難しいことが多く、どうしても人を選ぶ。

しかし、そうであるために短絡的な「物語」を作りやすい。現在のソーシャルゲームの問題にしても、RMTの問題はわかりにくいため、特に、青少年保護に関心は集中しているようだ。筋立ては見えている。特定の被害者に取材し、それをあたかも全体のように報道する。この物語は単純であるために、一般社会に受け入れやすいだろう。

また、IT系の独立系メディア自身の立場も弱い。紙媒体にあまり向いていないため、Web媒体を中心に構成されている。ITmediaや、ImpressGamebussines.jpなど、総合サイトを抱えている企業があるが苦労している。

理由は、広告収入だけで、収益を成り立たせる必要のある苦しさがあるためだ。それが、近年のそうしたメディアへの広告出稿の減少によって、直撃を受けている。また、苦労してまとめた情報をアグリゲイターが、簡単に要約してただ乗りができるため、労力をかけて作ったニュースの価値は容易に下がる。媒体によっては業績の悪化から、原稿料の切り下げを行った企業もある。

■アメリカのITメディアの強さは資金調達力

ところが、アメリカでは、独立系のTechCrunchといった有力なメディアがITでは強い影響力を持っている。

日本のITメディアとの決定的な違いは。彼らはベンチャー企業のスタートアップに投資できる資金への影響力を持っているということだ。ニュースはシリコンバレーを中心とした投資資金の流れを多く追っている。そのニュースが投資資金への影響を与えるためメディアの価値を引き上げている。

今の日本でベンチャー企業にとっての最大の問題は、新規投資に対する資金的な硬直性にあることは間違いない。新規に次々に登場するイノベーションを引き押す企業への投資への媒介としてメディアが活躍しているために、大きな影響力を持てるのだ。

今の日本でイノベーションを引き起こす企業の登場が限られるのは、資金不足で、小さな企業が新しいチャンスを生み出せないため、才能を持つ人材の芽を潰してしまう。この投資資金の資金硬直性の問題は根深い。

マスコミが政治の問題で右往左往するのはいい。誰もが、その話は好きだからだ。しかし、なぜ日本から次の世代を生み出す新しい産業が登場しにくい理由は、ITや科学に関するマスコミの無知にも問題があると感じている。

ITメディアが強くなるにはメディアが資金調達力を得るのは一つの解決策だと感じているが、今は日本ではその壁は厚い。少なくとも大手マスコミには無理だと考えている。だとすれば、どうすれば、この状況を変えることができるだろうか? 

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT) @kiyoshi_shin