アメリカのダイナミズムと『みんなで考える情報通信白書』

山田 肇

情報通信政策フォーラム(ICPF)では昨晩、小池良次さんにアメリカの電波政策について話していただいた。業界、学者、政治家を巻き込んだバトルの中から電波の有効利用が進んでいくダイナミクスを知ることができ、とても有意義だった。

テレビ帯ホワイトスペースの開放に抵抗していた放送業界は、テレビ視聴者数の減少に直面し、番組のネット配信を強化しなければならない状況に陥っている。国家ブロードバンド計画以降、光ネットよりも無線ブロードバンドに傾斜した通信業界は、スマートフォンの普及で電波のひっ迫に悩んでいる。こうした状況を受けて、テレビ帯ホワイトスペースは過疎地に無線ブロードバンドを提供する際の、コアネットワークに活用されようとしている。そんな話だった。

文部科学省科学技術政策研究所が発行する『科学技術動向』にテレビ帯ホワイトスペースについてレポートを書いたことがある。その中で説明したが、放送よりも固定通信のほうが、固定通信よりも移動通信のほうがホワイトスペースとしての活用がむずかしい。わが国がエリアワンセグで放送利用に留まっている間に、紆余曲折はあったもののアメリカは固定通信(基地局までの通信)に進んだ。地域によって利用できるチャンネルが異なることは、利用可能チャンネルをデータベース化して解決した。アメリカに比べれば、わが国は亀の歩みである。


ところで、『みんなで考える情報通信白書』という試みが進められている。平成24年版の制作にあたって情報通信に関する意見を募集するため、Facebookとmixiに特設ページが設置され総括サイトが別に設けられた。3月のテーマは国際競争力で、4月はメディアの進化である。

中には辛口意見も提出されている。「通信サービスの中心をモバイルにすべきである。政府は、ユニバーサルサービスとして維持すべき基本サービスを携帯電話に変更すべきである」は、小池さんの講演につながる提案だ。

地方自治体で広報活動に加えて、市民の声を集める公聴活動が実施されるようになった。『みんなで考える情報通信白書』は総務省版公聴活動だ。集めた意見を元に新しい施策が展開されるよう期待したい。それがなければ『みんなで考える情報通信白書』は公聴ポーズを取るだけのものだ。

山田肇 -東洋大学経済学部-