東洋経済オンラインのステーキ・けん井戸社長インタビューがなかなか興味深い。
「倒れるのはそいつが悪いだけ。自己管理の問題だ。そもそも労働基準法がおかしい」発言の部分だけが注目されそうだが、重要なことを示唆している良インタビューだ。
もともと労基法は工場の生産ラインをモデルに想定していて、今の時代には明らかに合わない。工場でみんなでガチャンガチャンと一定時間機械を回すだけで利益の出せる時代は終わったのだ。
もうそういうポジションは中国内陸部やカンボジアに譲って、これからの日本企業は個人が知恵を絞って生産性を挙げていくしかない。具体的には、時間で賃金や労働を図るシステムからの脱却だ。
だから、ホワイトカラーエグゼンプション(以下WE)のように、労基法の規制を大幅に緩和する政策は、方向性としては正しい。
ただ、そこには各従業員がちゃんと自己管理出来るような裁量が必須となる。有給休暇取得率の異常な低さを見ても明らかなように、日本型雇用制度においては個人の裁量は非常に限定的だ。
だから、まずこちらを変えてからWE的な議論をしろというのが筆者のスタンスだ(でないとサビ残が増えるだけ)。
具体的に言うと、担当業務範囲の曖昧な職能給から、明確に切り分けられた職務給への移行がある程度進んだ段階で、そういった議論をすればいい。※
ただ、いつまでたっても政治は労働市場改革をやる気が無いし、商売はそんな悠長なこと言ってられないというのも事実で、労働市場改革の前に労基法だけでもなんとかしてくれ的な声は非常に強いのも事実。
その点、業務委託で裁量と自己管理をセットで与えつつ、それ以外のキャリアパスも残すという井戸氏の方針は(一見すると暴論に見えるかもしれないが)あるべき順序にきちんと沿っている。
倒れる奴は自己責任。それがイヤなら、店長にも管理職にもならなければいい。
この考えは、良くも悪くもこれからの日本の働き方の一つのトレンドになるだろう。
ところで、民主党政権による有期雇用規制や派遣法改正のように、政府の動きはこのトレンドに逆行しているように見える。だが皮肉なことに、政府の動きはむしろ企業の脱・正社員化を後押しするだろう。
もう1つは民主党が社会保険の適用枠を拡げようとしており、そうなれば小売りや外食産業はたまったものではない。
その対象にならないように業務委託契約を推進する方針だ。
事業内容により人件費の原資は決まっていて、それを法で増やすことはできない。
政府が労働者を企業に縛りつけようとすればするほど、脱正社員化の流れは進み労働者は企業という共同体からは切り離されることになるはず。長い目で見れば、それは日本にとって必要なことである。
※仮にWEを先行させるとしても、職務定義をきっちりさせた上で裁量とセットで渡す等の義務化が必須だろう。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年4月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。