違法ダウンロード刑事罰導入を阻止しよう

城所 岩生

違法ダウンロードの刑罰化については、今国会への提出が閣議決定されていた著作権法改正案に盛り込むことを自民、公明両党が決定、民主党も実務レベルでは了承していたが、4月17日の党文部科学部門会議で合意が得られずに結論は次回以降の会議に見送られた(朝日新聞)。賛成多数で刑罰化を決めた自民党の中で、反対に回った世耕弘成参議院議員がブログで問題点を的確に指摘している。


最初に刑事罰を科すような重要な法改正を、内閣提案の著作権法改正案に便乗して通そうとする手続き面の問題を指摘する。

私が反対論を展開したのは、そもそもフェアユースという形で著作権の縛りを緩めようという法改正の修正案で、ダウンロードに対して刑事罰導入という規制強化を図ることは違和感があるという点である。違法ダウンロードに刑事罰を科したいのならば、単独の立法で堂々とチャレンジするべきである。内閣提出法案の修正などという変則的な形で刑事罰を導入するのは姑息だと言わざるを得ない。

後述するようにオランダでは昨年末、ダウンロード(刑罰化ではなく)違法化法案が提案されたが、これに反対する議員が私的目的のダウンロードを合法化する逆提案をして、採択された。世耕氏の指摘するとおり単独の議員立法で挑戦し、国会で十分議論を尽くすべきである。

続いてダウンロードが違法化された2年前の著作権法改正に言及する。

そもそも前回の法改正時には、組織的に実施される可能性の高い違法アップロードには刑事罰が導入されたが、個人が罪の意識なしにダウンロードする可能性が高い違法ダウンロードについては「違法だが刑事罰はない」という状態に止めた。今回なぜその考え方を改めなくてはならないのか、大きな状況変化があったのかが不明確である。

世耕氏は2年前の法改正でアップロードに刑事罰が科されたと理解しているようだが、アップロードは1997年に違法化された際に同時に刑事罰も科された。ダウンロードについては2年前に違法化されたが、刑罰化は問題が多いとして見送られたので、その状況が2年前から変わったのかと読み変えれば、指摘のとおりである。

次いで摘発の難しさを指摘し、以下のように続ける。

逆に摘発が可能だすると今度は警察が個人のネット利用を監視することにつながり、通信の秘密を侵す可能性がある。通信ログの長期にわたっての保存義務化等、自由なインターネット利用を阻害する事象も発生しかねない。・・・これは憲法上の通信の秘密に関わる重要な問題であり、慎重に検討されなくてはならない問題だ。

クラウド時代にもマッチしない問題も指摘する。

新しい技術動向にも配慮する必要がある。最近はiCloud等、クラウドサービスが普及していて、ネット上に自分が保有する音楽ファイルを置いておいてその携帯音楽端末にダウンロードして聴くという新しい形態が普及している。また個人で自宅のサーバーに音楽ファイルを置いて、ネットでアクセスして聴く人もいるだろう。こういう合法的な個人利用としてのダウンロードと、違法なダウンロードとをどう見分けるのだろうか?無実の個人を立件してしまうことにならないだろうか?きわめて心配である。

日本では2年前に刑事罰こそ見送られたが、ダウンロード自体は違法となった。しかし、ヨーロッパには私的目的のダウンロードを合法化した国もある。スイスとオランダで、いずれも昨年末に合法化した。

オランダでは国民の30%が違法にダウンロードしている実態に鑑み、議会にダウンロード違法化法案が提案されたが、議会はダウンロード違法化反対派が提案した、私的目的のダウンロードを認める動議を採択した。ダウンロード違法化は情報の自由な流れを制約するため、自由でオープンなインターネットの思想に反すること、表現に自由も制約すること、違法ダウンロードを取り締まるためにインターネットの利用を監視することは、利用者のプライバシー侵害になること などが容認する理由だった。

最後に音楽業界に必要なのは拙速な刑事罰の導入ではなく、ビジネスモデルの転換であるとする。

もちろん日本の音楽産業が非常に厳しい状況に置かれていることを放置しておいてよいとは考えていない。売り上げもピーク時と比べて半減してしまっている。 しかし私は違法ダウンロードを取り締まれば、音楽産業が復活するとは思えない。むしろ世界の音楽ビジネスの激変についていけていないことが、大きな原因ではないかと考えている。・・・

また、音楽がネットで配信されることが当たり前になり、パッケージで販売していたビジネスモデルが完全に崩壊しつつある。またその配信プラットフォームがアップルをはじめとする海外勢に押さえられていることも問題だ。

今日本の音楽産業の将来を真に憂慮しているのであれば、拙速で近視眼的な違法ダウンロードへの刑事罰導入よりも、議論すべきポイントが山ほどある

このように問題山積にもかかわらず、ドサクサに紛れて議員立法の動きが出てくるのは議員が業界団体の圧力に弱く、組織化されないユーザの声は議員に届きにくいからである。

ジャーナリストの津田大介氏は昨夏からツイッターで議員立法の動きを報じていた。「今回の動きは立法プロセスがあまりにも酷すぎるとして、今後音楽業界の偉い人とは積極的に距離を置いていく」とまで宣言した。同氏は刑罰化に反対する人には選挙区の国会議員にメールすることをすすめている。これは議員立法の国、米国では常とう手段である。議員はカネが欲しいので、多額の政治献金をする業界団体には弱いが、同時に票も欲しい。多くの有権者を敵に回すような立法は避けたいからである。

民主党は党としての結論を次回以降の文部科学部門会議に先送りしただけなので、今後の会議で決める可能性は残されている。すでに導入を決定ずみの自公両党は仮に民主党の合意が得られなくても、今国会での法案提出を目指している。オランダの議員達は、ダウンロード(刑罰化以前の)違法化が情報の自由な流れを制約するため、自由でオープンなインターネットの思想に反するとして、これを阻止した。ネットユーザは連休で選挙区に戻る議員に、ネットの特質をそぐ法案には反対する意向を伝えて、違法ダウンロード刑罰化を阻止すべきである。

城所岩生