確かに『金融政策だけでは経済は正常化しない』のだが…… --- 長谷川 公敏

2012年05月15日 09:40

「バレンタイン緩和」と呼ばれている2月14日の日銀の追加金融緩和策は効果的だった。この決定を受けて、日本経済の大きな足かせになっている「円高」が是正され、連れて株価も上昇した。


■円高は悪いことではない?

本来、円が高いということは日本が高く評価されているということであり、こうした視点では円高は忌避すべきことではない。また、自国通貨が高くなると交易条件が改善するなどのメリットがあり、原発の稼動問題で、原油やLNGなどの発電用の燃料を海外から大量に輸入しなければならない日本にとっては、円高は必ずしもデメリットではない。

しかし、「100年に一度」といわれるリーマンショックで経済に未曾有のダメージを受けた国々は、オバマ米大統領が2010年に「5年間で輸出を2倍にする」と表明するなど輸出拡大を目指し、そのために自国通貨安競争をしている。

■為替レートは金融政策で決まるのか

こうした中、為替市場では各国の金融緩和策に注目が集まっている。既に先進各国の政策金利は「ほぼゼロ%」まで下がっているので、市場では所謂「金融の量的緩和策」に注目している。「量的緩和」の度合いを測る指標として、市場では「マネタリーベース(注1)」を見ており、国会でも日銀に対し「米国に比べるとマネタリーベースの増やし方が少ない」などの意見が出ている。

しかし各国の為替レートは、必ずしもマネタリーベースで決まっているわけではない。確かに、リーマンショック以降で見ると、米国のマネタリーベースの残高は3倍ほどに増加している一方で、日本は3割程度しか増えておらず、この間、円は対ドルで大幅に高くなっている。だが2006年の動きを見ると、日本のマネタリーベースの残高が、1年間で2割ほど急減(この間、米国のマネタリーベースには変化なし)していたにもかかわらず、円は対ドルで安くなっていた。

■為替市場の特異性

為替の変動相場制は1970年代半ばに、各国間の国際収支の格差是正を目的として導入された。こうした経緯からすると為替レートの決定要因は「国際収支」のはずなのだが、その後の推移を見ると、各国の国際収支の格差はむしろ大きく拡大しており、国際収支は為替レートの決定要因ではないようだ。

どうやら、為替レートがどのような要因で決まるのかは、そのときときのブーム(流行)のようだ。これは、為替市場では、取引量の99%が投機であることが影響している。投機家は保有することではなく反対売買することによって利益を上げなければならないため、市場参加者にとっては「変動」することが重要であり、変動の理屈はどうでも良いからだ。

■日銀の本意は

平時の場合、必要以上の金融緩和はインフレを引き起こす。日銀はそれが頭から離れないようで、時々「無意味な金融緩和」や「金融緩和の弊害」を説いてしまう。例えば、白川総裁は米国の講演で、「2000年~2010年の生産年齢人口1人あたりの実質GDP成長率は、G7諸国の中で日本が一番高い(注2)」など「緩和はもう十分」とも受取られる発言をしている。また、総裁は「日銀が日本国債の大量買入れなどを行うと、日本の財政規律が緩むと市場が懸念し、かえって市場金利が上昇する」と発言するとともに、実現する可能性が極めて低い前提(注3)を置いて「金利が上がると金融機関の経営に大きな負担がかかる」との試算結果を発表している。

■堂々と正論を

前述のように、金融緩和が必ずしも円安に繋がらないことは事実であり、現に4月27日決定の追加金融緩和策は円安に繋がらなかった(注4)。しかし今は「100年に一度」の大きなショックを引きずっている非常時だ。

日銀にはトリッキーな「金融緩和不要論」ではなく、堂々と正論を展開した上で、「非常時で、金融緩和競争が継続している中では現実の対応も必要だ」と説明し、実効性のある金融政策を継続してもらいたいものである。

(注1) 金融機関が日銀に預金している当座預金の残高と現金通貨の発行残高を加えたもの。
(注2) 2012年4月19日。演題「日米の経済関係:互いに何を学ぶことが出来るか」
(注3) 「金融機関が保有する債券の各年限の金利が一律1%上昇する」、「金融機関に預けてある流動性預金が3ヵ月以内に流出する」などの前提で試算されている。想定される金融機関の損失額は6.4兆円になるとしており、「年限が長い債券ほど金利が上昇する」という通常の仮定をおいた試算は、「損失は相対的に小さい」とだけ記載されている。また、「流動性預金が3ヵ月で流出」は、所謂「取り付け騒ぎ」を髣髴とさせる。
(注4) 投機筋の「円売り残高」が大量にあったことが、「円安」に振れなかった要因だとされている。

長谷川 公敏
(株)第一生命経済研究所
代表取締役社長


編集部より:この記事は「先見創意の会」2012年5月15日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。

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