著名人の名義貸しと損害賠償責任(美貴亭食中毒事件) --- 山口 利昭

2012年06月11日 09:28

先週、野村HD社の株主総会における株主提案「野菜ホールディングス商号変更」に関する話題をとりあげましたが、fdmsさんよりコメントをいただきまして、東京都中央区に「日本牛乳野菜ホールディングス株式会社」なる古い登記が存在する、と教えていただきました(すでにtwitter上では話題になっているようで)。なるほど、これが商号変更に関する定款変更議案が上程されなかった真の理由なのかもしれません(ご指摘どうもありがとうございました)。ただ、この株主提案をされた株主の方への夕刊フジのインタビュー記事を読みますと、野村グループによるトマト栽培を皮肉ったものだと述べておられますので、私の推測も全く外れていたものでもないように思います(単なる言い訳ですが……)。


さて、商号に関する話題をもうひとつ採りあげたいと思います。週末、元モーニング娘。の藤本美貴さんがプロデュースしていたとされる焼き肉店にて、高校生16人が食中毒症状を訴えた(3名ほどは入院)という事件が報じられております。私自身も外食産業運営会社の役員をしておりますので、こういった事件にはとても敏感に反応してしまいます。藤本さんは謝罪するとともに、同焼肉店の運営には関与していない、あくまでもイメージキャラクターだった、と自身のブログ等で説明しておられるようです。

同焼き肉店の運営会社も、藤本さん(及び所属事務所)に謝罪された、とのことで、おそらく被害者の方々との今後の対応も、運営会社側が主体的に行っていくものと思われます。藤本さんも3月に出産されたばかりで、育児に専念されている最中でしょうから、今回の件では困惑されているのではないかと推察されます。ただ、被害に逢われた方々は、「ミキティの焼肉屋さん」ということで同店舗にお越しになり、ミキティプロデュースというメニューを堪能することが目的だったと思われます。ご自身は名前を貸しただけ、同店舗の運営には関与していない、ミキティ考案メニューというのも実は運営会社が企画したもの、という説明だけで、果たして藤本さん(もしくは藤本さんの所属事務所)は食中毒事件の損害賠償責任(運営会社との連帯責任)を免れることができるのでしょうか?

法律的に検討すべき点は二つあると思います。ひとつは名板貸し人の責任を規定する商法14条、会社法9条の類推適用が認められる事案かどうか、という点であります。商法14条とは、商人が他人に自己の商号の使用を許諾した場合に、その商人が事業を行っているものと誤認して、その他人と取引した者に対し、その他人と取引から生じた債務について連帯責任を負う、というものです。厳密に読めば、著名人プロデュースといっても、決して「商号」の許諾ではありませんし、同じ事業を営む者でもありませんので、商法14条ズバリの適用場面ではありません。しかし、自己の名前を付けて商売することを許諾して、その著名な氏名を売りにして焼き肉店が営業をしている以上は、消費者保護(取引先保護)の見地から商法14条を類推することも可能なように思われます。

代表的な判例は旧商法23条(現商法14条の前身)時代ではありますが、ペットショップで購入したインコが病気に罹っていたのですが、そのインコの病気が家族に伝染し、家族が死亡したという事例におきまして、そのペットショップが入っていたスーパーマーケットは、ペット購入者からみれば(ペットショップを)スーパーが運営していたものと誤認される外観があり、その外観作出についてはスーパー側にも原因があるとして、この名板貸し責任に関する規定を類推適用してスーパー側にも責任を認めたものがございます(最高裁平成7年11月30日 判例時報1557号136頁)。旧商法23条と現商法14条とは条文が少し変わったため、果たして現在もこの最高裁の平成7年判決がそのまま妥当するかどうかは疑問とする説もございますが、そもそも名板貸し責任が認められる根拠が外観法理ということからすると、現時点でも商法14条を類推適用する場合の有力な根拠判例にはなるものと思われます。

著名人の名前で焼き肉店を運営する、というものも、著名人の関与の仕方でいろいろと分かれてくると思います。実際に著名人が経営しているところもあるでしょうし、お店のプロデュースという形で参加するところもあるでしょうし、単に名前だけを運営会社に貸して「イメージキャラクター」として登場するだけ、ということもあります。私個人の意見で申し上げるならば、イメージキャラクターとして著名人が参加して、実質的には第三者が運営しているようなケースであれば、原則として商法14条の類推適用の根拠となるほどの名板貸しにはあたらない、と考えます。運営会社に自分の名前を使って商売する、ということまでは許諾しているとはいえないからであります(たぶん、ここまではあまり異論はないと思います)。ただ、藤本さんの場合、焼き肉店「美貴亭」のHPのトップに「藤本美貴の焼肉屋さん」と大きく表示されており、外観上はあたかも藤本さんが焼き肉店を経営しているようにも思えます。こういった外観を藤本さん側が黙示的にも運営会社側に許諾していた、という事情があるならば、名板貸し人の責任規定を類推する前提もあるかもしれません。

さて法律的に検討すべきもう一点は、たとえ藤本さんが商法14条類推適用上の名板貸し人に該当するとしても、食中毒という突発的な事故にまで法的責任を負わねばならないのか、という点であります。たとえば「美貴亭」の従業員がお客さんに暴力をふるってケガをさせてしまったような場合、いくら名板貸し人としての立場であったとしても、その損害賠償責任を負う、というのはちょっと違和感があります。

商法14条は「他人との取引から生じた債務」について名板貸し人が責任を負う、とありますので、たとえば「ミキティ考案メニュー」と書いてあったから注文したのに騙された、金返せ、といった取引上の問題については責任を負うということになるかもしれません。いわゆる取引的不法行為に関する責任であります。しかし、食中毒事件が発生した、という場合、これを取引から生じた債務と言えるかどうか、ひとつの問題になりそうです。

なお、先の平成7年の最高裁判決でも、インコを購入した際に、そのインコに瑕疵があり、その拡大損害(家族の生命・身体への損害)が問題となった事例です。焼き肉店とお客さんの間における飲食物提供契約に基づいて提供された食品に病原菌が含まれており、それによって身体への損害がもたらされたということであれば、少なくとも取引行為に付随する安全配慮義務に関する債務不履行として、やはり名板貸し人の連帯債務が認められる余地はあるものと思います。食中毒事故が突発的なものとはいえ、外食運営会社としては通常生じうる事故として、「取引から生じる債務」と言えるのではないでしょうか。

こういった問題は、店舗の早期再開を目指して食中毒の原因究明に尽力することも大切ですが、まずは運営会社が個々の被害者の状況にあわせて誠意をもって対応することがなによりです。また、そのことが藤本さん側に迷惑をかけないためにも、最優先で取り組まなければならないことかと思います。「法律的に解決するとどうなるのだろうか」といった問題は最後に考えればよい課題であります。事件発生直後に「当社はこういった立場にあったので、法律的には責任は負いません」といったサインを世に示すことは、今のご時世、かえってマスコミや世論を敵に回すことになりかねないので(私の経験から)要注意です。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年6月11日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。

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