FOMC バーナンキは何を考えているか

小幡 績

米国FRBが今回追加緩和をしなかったのは、妥当だ。失業率が下がらないという点からすれば、金融緩和措置を行う理由があるが、効果という点からすると何も望めないため追加緩和に踏み切るのは難しい。今後の政策手段の余地や副作用を考えると、無理をして追加緩和を行うことは望ましくなく、今後、事態が変化し、追加緩和が必要になれば、すぐさま対応をするが、現時点では行わないという判断をしたものである。

しかし、今回発表された声明文を巡っては、二通りの解釈が対立している。何の動きもなく、緩和を期待していたのに失望した、というものと、次のFOMCあるいはその前でも、大きな動きがあることを示唆したものであるというものだ。

この違いは、声明文の終わりに出てくる文章の解釈だ。引用しよう。


The Committee will closely monitor incoming information on economic and financial developments and will provide additional accommodation as needed to promote a stronger economic recovery and sustained improvement in labor market conditions in a context of price stability.

これが今回のものだ。下線部は筆者がつけたものだが、ここがかなり強い意味を持つ、というのが、今後の緩和を示唆したと解釈する人々の(唯一の)根拠だ。ちなみに、前回(6月20日)の類似の部分の表現は以下の通りである。

The Committee is prepared to take further action as appropriate to promote a stronger economic recovery and sustained improvement in labor market conditions in a context of price stability.

恋愛さながらに、微妙な表現の変化に対して妄想を巡らせて、一喜一憂しているのが金融市場であるところが問題であることはさておき、追加緩和を期待していない(するべきでないと考えている)立場から、冷静にFRB、あるいはバーナンキの考えを推測してみよう。

表現が若干強まっているのは間違いないところであるが、これは欧州の情勢が悪化しており、また欧州の各国政府やECBが様々な手段を講じる可能性が高まっていることから、それらの情勢を踏まえれば、自然とこのような表現になるだろう。だから、この表現が強いか弱いか解釈すること自体はあまり重要でない。

したがって、素直に考えれば、FRBが動くのは、ECBが何らかの緊急手段を採ったときである、目的は、ECBと同調する姿勢を示すことにある。これは米国景気からすると、過度なドル高進行を抑え、輸出に若干有利となるという役目があるだろう。しかし、実質的には、ユーロが対ドルで安値が進行してしまうと、キャピタルゲイン狙い(ロス回避)でユーロから資金が流出してしまう懸念があり、それを防止する役割の方が大きいだろう。

こう考えれば、FRBは次のFOMCを待たずに、臨時で動く可能性は十分にあり、そのときの手段は、ECBが予想外の利下げをすれば、FRBもわずかに残った余地の利下げをする可能性がある。

一方、ECBが動かない、欧州が状況は悪いが、パニックのような形にはならない場合には、FRBが緊急に動く必要はなく、次のFOMCあるいはそれ以降のFOMCで動くことになるだろう。その場合も、ECBの動きに合わせて動く部分もあるはずだが、FRBは日銀などと違って、世界の中央銀行のリーダーであるから、国内要因が動く理由の中心となるだろう。手段としては、いわゆる量的緩和か緩和政策のコミットメントの延長、オペレーションツイストのコミットメントの延長、などで、あまり目新しいものは予想できないが、米国の金融政策で唯一景気に強い影響を与えられるのは、住宅ローン金利の低下であるから、MBSの買い入れなどを中心に、住宅ローン金利をめがけた政策を打ち出すことになるだろう。

一方、副作用は明らかに大きいから、バーナンキ以外の理事で反対する人々は増える可能性がある。さらなる緩和は、商品価格の上昇を招き、干ばつにより穀物価格が上昇している中でインフレを加速する畏れがある。一方、住宅ローン以外のマーケットにおいては、ドル不安、米国債不安というものは欧州と違い全くないから、これを支える意味はなく、量的緩和も金融市場の支援も必要はない。副作用があり、効果は限定的で、かつ、そもそも緩和しても景気にも金融市場にもプラスでなく、マーケットが求めているのは、短期の株価(その他のリスク資産価格)上昇に過ぎないのがわかりきっているのであるから、追加緩和するべきでない、と考えるのが普通である。

しかし、我々の感覚と少し異なるのは、アングロサクソンは、副作用が明らかに顕在化していなければ、効果があるかどうか分からなくても、やれることはやってみないことには始まらない、という考え方をすることだ。やれるのにやらないのは侠気がない、ガッツがないといった感じを持っていることだ。バーナンキはとりわけ動く方にバイアスがかかっているのが、これまでだから、今回もそうなる可能性は高い。ただ、昨年のジャクソンホールでの講演では、一昨年と180度スタンスを変え、金融政策に出来ることは限られている、財政、政治に責任がある、という主張だった。今年の8月末のジャクソンホール公演でも何かを主張するはずだ。

彼は、主張をして目立つのが大好きだから、今回、動かず、ジャクソンホールへの注目をより高めたのだとも皮肉に解釈はできる。8月末に注目だ。