JALの再上場の問題点

小幡 績

JALの再上場が9月後半に予定されているが、これに対する批判が高まっている。

批判の理由は、銀行からの債権放棄や政府からの様々な援助を受けた結果、あまりに利益が多く出るようになってしまい、ライバル会社のANAに対する不公平が生じており、同時に、今後、安易な政府による救済を他の企業が期待することになるモラルハザードを生む、ということだ。

これらの指摘はむろん正しいが、経済全体にとってより重要なのは、この再上場および関連する政府の政策が、日本経済の成長力を低下させているのではないか、という懸念だ。


JALは2010年1月に会社更生法の適用を申請した。そのときは、多くの人が2次破綻必至で、再建など実現しないと思っていた。それが脅威の回復を遂げたのは2つ理由がある。1つは、財務的に極めて恵まれていたこと。銀行は5216億円もの債権放棄を行い、しかもDES(債権を株に換え、もし再建に成功したらアップサイドの利益を共有することを目指す)すらしなかった。繰越損失により法人税の減免が9年間可能になり、財産評定(今回は機体などの資産の評価替えを行い、損失を一気に計上し、将来の減価償却費を圧縮する)などにより利益が大幅に膨らんでいるから、この減免の恩恵を大きく受けることになった(少なくとも年間500億円前後の減免が5年程度と見込まれる)。

しかし、もう一つの理由は、あのJALがコスト削減などの改革を実現できるはずがないとみなが思っていた、それが実現したことにある。そして、JALは稲盛氏のパワーによるものかどうかは分からないが、少なくともこの二年間は別の組織になっていた。JAL経営陣が期待した以上にコスト削減に自ら取り組んだ。JALの経営も組織も改善したのである。

このような状況であれば、改革の成果を株価という形で実現する再上場を批判することは妥当でないという考え方もある。再上場賛成、反対、どちらが正しいのか。

実は、どちらも正しくない。再上場すること自体は良いこととなる可能性があるが、現状のプランではなく、別のヴィジョンの下で再上場を実現させるのが、日本経済を成長させることになる。

日本経済にとって重要なことは、資本や人材というリソースを効率的な企業や個人に配分する。効率的な企業はそうでない企業よりも、同じリソースでより多くの付加価値を生み出すことが出来るから、金融市場や労働市場、あるいは政府が、その配分の役割を果たすことにより、経済全体の付加価値が多くなる。付加価値とはGDPであるから、GDP成長率が高まるのである。

政府に救済される必要があった企業と、そのような厳しい経済環境の中生き残った企業では、後者の方が効率的と考えられる。実際、ANAは先日公募増資を発表した。市場で十分に資金調達が行えるのである。一方、JALは市場では手に負えず、政府の出番となり、政府が出資した。

このような状況では、ANAのビジネス機会を奪うような産業政策は望ましくないことになり、ANAへの資源配分を阻害するような政策は止める必要がある。一方、JALは、この2年で効率性を高めたと思われるから、この高くなった効率性を維持し、さらに高めるような仕組みを確立することが必要である。それは一般には、ガバナンスと呼ばれ、優れた経営者と優れた株主(債権者を含めた資金提供者)が必要である。

再上場は、これを確立するチャンスであるが、今回の再上場は、資本に関しては、政府(企業再生支援機構)が資金を回収するために、売り出すだけで、新たな資金調達はせず、また特定の株主や経営者、あるいはそのガバナンスの仕組みを確立するようにはなっておらず、単に再上場するだけである。これはもったいない。JALの経営の効率性を高めるような再上場プランを練り直すべきなのである。