アメリカの医者は馬鹿なのか?

藤沢 数希

世界第一の経済大国アメリカのふたつの成長エンジンは金融と医療であった。金融に関しては、サブプライム住宅ローン市場の崩壊に端を発する、金融危機、リーマンショックにより、後退を余儀なくされているが、世界最先端の医療技術を有するアメリカの医療関係の支出は年々増加している。アメリカの医療セクターは、アメリカ経済の中で雇用を吸収し、GDPを押し上げているのだ。そこで、今日はアメリカの医療の内実を見ていこう。以下は、2010年の世界の主要国と、財政破綻の危機に瀕するPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインに対する侮蔑を込めた名称)諸国の医療支出である。

主要国とPIGS諸国の医療支出
医療費と国民の健康
出所: OECD


アメリカの医療支出は主要国の中で突出している。GDPの約18%を占め、一人あたりの金額はギリシャやポルトガルの3倍である。アメリカでは年間に一人当たり約64万円の医療費がかかる。日本は24万円ほど。ギリシャやポルトガルはそれよりも少ない。財政危機に貧するギリシャやポルトガルでは、今後はさらなる医療費の削減があるかもしれない。

しかし、国民の健康状態で見ると、やや状況が変わってくる。表の中ではアメリカの平均寿命が一番短く、乳幼児死亡率に限って言えば、アメリカ国民は突出しており途上国並である。アメリカの医療支出は、なるほど確かにGDPには大きな貢献をしているが、アメリカ国民の健康には貢献していないようだ

この表を見る限り、ギリシャが財政破綻し、今後、ギリシャで医療支出が削減されるとしても、それほどギリシャ国民は恐れる必要はなさそうだ。健康に大切なのは、高価な医療設備や高額報酬を受け取る高度な教育を受けた専門医師ではなく、おそらくは健康的な食事や睡眠などの生活習慣なのだろう。