決断できない日本、システムの「書き換え」が迫る=執筆者と読者の対話-アゴラ夏期セミナー報告

2012年08月17日 12:03

月約270万ページビューと日本最大級の閲覧数を持つウェブ上の言論空間「アゴラ」。その執筆者を講師にして読者との対話をリアルで行う「アゴラ夏期セミナー」が8月4日、5日の両日、風光明媚な神奈川県葉山町の研修施設で行われた。

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(写真1 会場からの相模湾と富士山)


読者からの参加者は40人。講師として、ジャーナリストの田原総一朗氏、グーグルの日本法人の元社長で今はスマートグリッドや電力改革への提言を行う村上憲郎氏、慶應義塾大学メディアデザイン研究科(KMD)教授でNPOなどでも多彩な活動をする中村伊知哉氏、アスキーの創業者で現在は尚美学園大学メディア学部教授の西和彦氏など、情報と通信の分野で多彩な活動を続ける人々が集まった。アゴラ研究所の池田信夫所長が司会を努めた。

参加者に共通した問題意識は「『決断できない日本』を、どうしたら変えることができるのか」というもの。問題が山積し、解決の方向がある程度分かっているのに、なぜか進まない。「夏休み、リラックスしながら。皆さんと一緒に考えたい」。池田氏はセミナーの開始で呼びかけた。

セッション1 『江戸時代システムとその終わり』

初日の第1セッションでは、池田信夫氏が『江戸時代システムとその終わり』という講演をした。池田氏が愛知県立大学准教授の與那覇潤氏とともに出版する近著『「日本史」の終わり 変わる世界、変われない日本人』(PHP研究所)を基にしたものだ。(写真2)DSC06682 (1)_R

池田氏は過去をひも解いた。社会科学で今、興味深い動きがある。「暴力が社会を作った」という視点で、人間の行動を考え直すというものだ。

考古学の研究によれば、平和な原始時代という思い込みは幻想で、石器時代には平均して15%もの人が殺害された形跡があるという。飢餓も日常的にあり、人々は食物を奪い合って、生存のための闘争を続けた。

そうした争いを止めるため、集団内で暴力を止める一方、他集団との戦争に打ち勝つように、社会が発展してきたという説が最近有力になっている。「下部構造の経済が社会体制や国をつくる」というヘーゲルやマルクスの考えた社会論から「コペルニクス的転換が起こっている」と、池田氏は米政治学者フランシス・フクヤマの言葉を紹介した。

さらに西欧が19世紀、他地域に先んじて急速な経済成長を遂げたのは、「戦争」という競争で国内制度の整備、技術革新がなどの進歩が生まれたためという説もある。

日本で争いはあったが、基本的に他国より平和な歴史を享受した。その歴史、また江戸時代に確定した慣習が、現代にまで影響を与えている。そうした特異な状況は今、根本的な見直しを迫られている。「制度の賞味期限が切れています」と池田氏は問題意識を述べた。

セッション2 『「決められない政治」はどう克服できるのか』

DSC06692_R第2セッションでは田原総一朗氏、中村伊知哉氏、池田信夫氏をパネリストとして、「「決められない政治」はどうすれば克服できるのか」をテーマに語り合った。アゴラ石田雅彦編集長が司会を務めた。(写真2 田原氏と中村氏)

田原氏の話題は縦横無尽で面白いものだった。約100本の議員立法に関わった田中角栄元首相(首相在任1972—74)の活力、「政治改革する」と田原氏の番組で公言し、それを行わなかったことを一因に退陣に追い込まれた宮沢喜一首相(同91-93年)のエピソードを紹介。1970年代までの経済が成長しながら安全保障や外交をアメリカに委ねられた「幸運な時代」(田原氏)が終わり、新しい意思決定の方法が見当たらないという。

中村氏は郵政省の官僚として、通信・放送・電波の自由化にかかわった。国策を企画する喜びと興奮からがむしゃらに働き続けたという。「ところが幹部になると、企画ではなく調整が仕事になります。そして今、官僚の取り組む領域がどんどん細分化されています。昔の課長補佐の仕事を今は局長がやっています」。中村氏は限界を感じて民間に出て、新しい取り組みを始めたという。

田原氏の指摘によれば、角栄の時代には経済成長による税収増で新規事業を行政が行え、金の力で「足して二で割る」解決もできた。ところが低成長と財政悪化で何もできなくなったところに、政治主導と称して議論が先行する民主党政権ができた。「新しいルールを何もできないまま、官僚を使いこなせていない」と指摘した。

第1日目の活発な質疑応答の後で始まったのは「飲み会」。こうした専門家らと、参加者が夜遅くまで語り合った。

セッション3 『物のインターネットの可能性』

翌日の第3セッションは「物のインターネットの可能性」をテーマにした。村上憲郎氏、西和彦氏、中村伊知哉氏、池田氏が参加した。物のインターネット(Internet of Things: IOT)とは、これまでの人と人、人と物の間をつなぐインターネットに加えて、物と物をつなぐ新しい動きだ。(写真3講演をする西氏)DSC06709_R

その中で、今関心を集めているのが、「スマートグリッド(賢い送電網)」だ。これは情報網と送電網を束ねることで、電気を使うあらゆる道具がインターネットと連動する。「インターネットの草創期と同じように、何がでてくるか分からない状態です」。村上氏は期待を述べた。

西氏はビジネスの構想を明らかにした。東京電力を例にすると、1キロワットアワー当たり、低圧受電(主に個人向け)は26.5円。一方で高圧受電(主にマンションなど)は9.1円。高圧で安く買い、使ったり、転売したりすることができる。それとスマートコンセントを結びつけてはどうかという提案だ。

ここに中村氏がコメントを加えた。原発事故の後で電力自由化が検討されている。これは80年代末からの通信自由化に状況が似ている。当時はNTTに立ち向かう強い競争相手をつくることが課題だった。「電力自由化で気をつけなければならないのが悪しき独占。自由化した後で競争がなく、強い電力会社が残り価格やサービスを自由にコントロールしてしまうことです。スマートグリッドは、情報を使いやすくして、参入を容易にする面がありそうです」と、指摘した。

「変人が社会を動かす、萎縮しては行けない」-田原総一朗氏

セッションを通じて見えたのは、日本で「決断できない」のは、いろいろな理由が重なっているということ。それでも経済と社会は刻々と変る。スマートグリッドはそうした一例だが、新しい変化も同時に芽吹いている。

「今だからこそ萎縮してはいけない。ホリエモンなど議論をする前に、好き嫌いでつぶした。変人が社会を動かすのだから」。田原氏は「飲み会」の席で語った。

セミナー参加者は、経営者、ビジネスパーソン、大学教授など多様だった。感想はいずれも好評だった。「新しい情報は人から入るものと改めて認識した。多くの学びがあった」「田原さんの若々しさ、論争の場での激しさと違った池田さんのソフトさに驚いた」などだ。(写真5 村上氏、池田氏を囲んだ集合写真)

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「アゴラ」の語源は古代ギリシャの都市国家にあった広場。そこは市民集会の場、そして人々が日常に必要な生活物資を取引する市場、そして劇場などの文化や情報が伝わる多目的な場であった。その伝統を受け継いで、21世紀のウェブ上の言論プラットホーム「アゴラ」は、新しい形での対話の場を提供していく。

アゴラ編集部

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