願望ではなく現実から出発するエネルギー政策 - 『精神論ぬきの電力入門』

2012年08月26日 21:29

精神論ぬきの電力入門 (新潮新書)精神論ぬきの電力入門 (新潮新書)
著者:澤 昭裕
販売元:新潮社
(2012-08-14)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆


来るべき総選挙で惨敗が予想されている民主党は「原発ゼロ」を公約の目玉にしようと、国家戦略室が「シナリオ」を書いて意見募集や公聴会を行ない、盛り上げるのに必死だ。しかし著者もいうように、これは問題の立て方を間違えている。「原発ゼロ」といった願望に合わせて政策を決めるのではなく、現実の制約条件の中で社会的コストを最小化することがエネルギー政策の目的だ。

特に深刻な問題は、原発を止めて火力を運転したため、2011年の実績で2.3兆円、今年は3.1兆円ものコスト増になることだ。毎日100億円近くをドブに捨てる結果、ただでさえ低い日本の成長率はゼロ成長に近づくが、この莫大なコストで得られるものは何もない。原発を止めても核燃料は発電所の中にあるので、巨大地震が起こったら福島第一の4号機のように爆発する可能性もある。化石燃料をたくさん焚くことで、大気汚染も地球温暖化も悪化する。

このように「悪い原発をゼロにする」といった精神論が先行する結果、「よいエネルギー」として再生可能エネルギーに期待がかけられる。これは著者もいうように通産省が「サンシャイン計画」などで80年代からやったことで、それでも太陽光発電の電力シェアは1%に満たない。それを無理やり増やそうと、42円/kWhという世界最高の価格で固定価格買い取り(FIT)が始まるが、その先輩ヨーロッパではFITは大失敗で縮小中だ。

さらに民主党政権は人気取りのために電力自由化や発送電分離を打ち出しているが、これも「悪い東電を解体する」という精神論が先行している。発送電分離で電気代が下がるとは限らない(むしろ上がっている)し、競争のないまま小売り電力を自由化すると、かえって電気代が上げ放題になるおそれもある。

著者は、むしろ現在の電力会社のインフラを「東日本卸電力」と「西日本卸売電力」に統合し、ここから利用者に小売りするサービスを自由化することを提案する。原発については各電力会社から分離し、国との共同出資で「原発機構」をつくることを提案している。インフラも発電原価もコントロールできないサービス業者がビジネスとして成り立つのかどうか疑問もあるが、発電部門の競争がほとんどなく新規参入の動きもない現状をみると現実的な案かも知れない。

いずれにせよ、法的根拠も合理的な理由もなく原発を止めたまま、その是非も議論しないで20年先の原発比率について世論調査したりする民主党には早く政権の座から去ってもらい、次の政権では本書のような地に足のついた議論が行なわれることを期待したい。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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