総務省の情報通信部門は経産省と合体すべき

松本 徹三

総務省の情報通信関連部門と経産省の情報関連部門との合体は、以前から何度も議論されてきた事だが、今日に至るも、未だにその様な組織改変の兆しは全く見えていない。

総務省に関連しては、それ以前の問題として、「電波の使用免許を供与し、これを利用する通信事業者を監督する規制官庁(米国のFCCや英国のOfcomに当たるもの)」と「情報通信産業育成の為の官庁」を切り離す事の要否が長い間議論されていたから、これを回避したいという思いが、組織改変問題全体の進捗を妨げてきたという事があるのかもしれない。しかし、「本来やるべき事」をさしたる理由もなく後送りするのは、何れにせよ感心出来た事ではない。


そもそも、「情報通信」に関連する仕事が、「地方自治」を主目的とする省庁の庇を借りて行われているという事自体が、誰が見ても如何にも奇妙な事だ。諸外国にもそんな例は見たことがない。

勿論、それには歴史的背景がある。もともと「郵政省」は「郵便局と電信電話会社、放送局などを監督する省庁」だったわけだが、日本の場合は「郵便局」に強大な「金融部門」と「保険部門」が含まれていたのが大きな問題だった。「『郵貯』が膨大な一般庶民の手持ち余剰資金を吸収し、これが財政投融資に使われる」という構造は、政治利権とも結びつくので、小泉純一郎の「郵政民営化」は国論を二分するまでの大議論になった。結果として、「民意」を味方に付けた小泉氏は「体制派」に圧勝、一時的にせよ所期の目的は達せられたかに見えたが、この経過の中で郵政省の立場は微妙なものになり、結果として「総務省」の傘の下に吸収される事になった。その間、郵政省の中で「情報通信」を担っていた部局は、殆ど脚光を浴びる事もなかった。

しかし、一方で、経産省が第一次産業を除く日本の全産業の「秩序ある発展」に責任を持つ立場にあるにも関わらず、本来なら全産業の中でも将来への期待を一身に集めていておかしくない「情報通信産業」のみがそこには含まれず、「地方自治」や「郵政」といった殆ど関係のない仕事を行う省庁の一角で、殆ど脚光を浴びる事もない状況に甘んじているのは、如何にも非戦略的だ。現在の経産省では、「商務情報政策局」の中に「情報政策課」とか「情報通信機器課」とかいうものがあるが、これ等の組織が総務省の中にある「報通信産業関連の組織とほぼ没交渉になっている現状は、どう考えてもよくない。

時あたかも、”Internet of the things”という言葉が世界中で脚光を浴びている。つまり、「これからのInternetは、人と人を繋いだり、人とクラウドを繋いだりするだけではなく、物と物、物とクラウドを繋ぐのにも使われる」という事だ。逆の言い方で更に言うなら、「全ての物は、これからはInternetを経由して世界中の他の全ての物と繋がり、世界中の物やサービスが一体化していく」という事を意味する。

Internetとは何だろうか? 言うまでもなく、それは「一つのルールに従って動くデジタル通信の仕組み」に他ならない。インターネットのルール(規格)が即ちIP(インターネット・プロトコール)であり、電話で始まった世界中の通信網は、今や「交換網」から「IP網」への転換の真っ只中にある。勿論、その通信網の中を行き交っている信号は、音声であれ映像であれ、既に、そのほぼ全てがデジタル信号に転換されている。

では、”Internet of the things”の世界の中で、出来れば日本が主導的な役割を果たす(最悪でも他国に遅れをとらない)為には、国としては何をしなければならないのだろうか? それを考えて実行する責任を持つ官庁はどこなのだろうか?

優等生は「ネットワークの整備は総務省の総合通信基盤局、端末機は経産省の商務情報政策局(情報通信機器化)です」と答えるだろうが、「ネットワークと機器だけで全ては動くのか? ネットワークと機器は全く別物と考えてよいのか?」と聞かれれば、答えに窮するだろう。

卑近な例ではこういう事がある。

東電が、すんでのところで、「え?」と驚くような旧態依然たるシステムを前提に、ファミリー企業が注文を分け合えるようなやり方で「スマートメーター」の発注を行おうとしていたのは、つい最近の事だ。私も3月26日付のアゴラの記事で、これには相当噛みついたが、驚いた事に、東電のもともとの計画では、「無線のメッシュ通信網のバックボーンとして、東電自身が1000億円を投じて自ら光回線網を敷設する」というおまけまでついていた。そして、更に驚くべき事に、この計画については、「将来のネットワークのあり方」を考えるのが本業である筈の総務省は、殆ど蚊帳の外に置かれていたかの様だった。

流石にこの計画には多くの人達がダメを出し、現在は原賠機構が前面に出て計画を練り直しているようだ。通信網については、当然の事ながら、「原則として既存のものを使う」という事が既に確認されており、各通信会社からの提案が出されるように要請する方針だと聞いている。しかし、ここでも、総務省はやはり蚊帳の外に置かれているかのように見受けられるし、通信会社の選定について、「一事業者に絞る方針」という「意味がよく分からない噂」も流れているようだ。

幸いにして、「採用する通信網の規格は世界標準に準拠したものとして、世界のどこからでも機器が買えるようにする」という原則は確認されている様だが、「各機器メーカーや各通信事業者が衆人環視のオープンな環境下で公明正大な競争を繰り広げる」という原則については、未だに不透明なものが残っているようなのが若干気になる。

それよりも、もっと気になるのは、もしかしたら、旧態依然たる省庁間の綱引きがこんなところにもまだしがらみを残しているのではないかと思われる事だ。

電力の需給をコントロールするスマートグリッドは、“Internet of the things”の典型例だ。これをどの様に構築し、将来の試金石とするかは、官民が一体となって叡智を絞るべき事柄だ。ここで「官」と言うのは、当然全ての関係省庁を含む。長らく構想されてきた総務省の関連部署と経産省の「連携」又は「合流」は、今この時にこそ前向きに考えるべきではないだろうか?