下敷きより薄く、息を吹きかけるだけで飛んでしまうiPhone

2012年09月14日 07:00

iPhone 5に対して、「ジョブズ以後のアップルはイノベーションが足りなくなった」といった感想が当然のように出始めている。これは日本でも、海外でも変わらない。私も12日のキーノートを見たが、あまりの退屈さに途中眠くなった。実際、何度も映像を見ていると、どうにも格好良くない製品の印象がする。

ただ、その状態は、そもそも当たり前の話なのではないかと思えてきた。そろそろ、スマートフォンは、ユーザーニーズを超えたオーバースペック化の時代に入り、成熟が見えてきたと考えられるのだ。

まだまだ現役で使えると思えるiPhone 4


手元に2年使い続けてきたiPhone 4がある。今でも、とても気に入っている。美しい製品だと思う。毎日欠かさず何かの作業を行うために使ってきた。それで、iPhone 5を購入することを検討する上で、今この瞬間に、自分が使い続ける上で困ったことがあるだろうかと考えたら、何もないことに気がついた。電話、音楽、ブラウジング、動画視聴、メモ入力、ゲーム等々……様々なアプリをダウンロードし、よかったものが選別されて残っている。それで、結局、何も困っていない。あえてあげるならば、2年間使い続けたことによるバッテリーがへたってきている点だろう。ただ、バッテリーは秋葉原なりの修理屋に持ち込めば、5000円程度で交換できる。

私にとって、ゲームができなくなるのは深刻な問題だが、大半のゲームは、現時点ではiPhone 4を基準に置いているため困らない。iPhone 4の販売台数は全世界で約1億台と多いため、簡単にサポートをやめるゲーム会社は限られるだろう。

ただ、今後、このiPhone 4を、iOS6にアップグレードをするつもりはない。OSは重くなり、もっさりする反応に変わる事はわかっているからだ。そのため、現状のOS5.1.1のまま凍結することになるだろう。08年のiPhone3Gの時代は、OSをアップデートしたら、動くといったレベルのものではないスローモーな動きになった。ブラウザを開くだけでも泣きたくなるほど遅く、少しでも早くiPhone4に切り替えることは切実な課題だった。だが、今はそういう状態ではない。

ユーザーは自分の欲しい機能が充たされれば追加費用を払わない

イノベーションの成長は、一般的にはS字カーブを描く。登場後の急激な成長の後、費用対効果に対して、その変化は緩やかになっていく。初めて登場したときの驚きは、過去に存在しなかったからこそ大きな価値が生まれるものだが、やがて、その力は弱くなる。技術に求められていたユーザーの必要条件が充たされてしまうと、技術はだんだんとディティールを増やす方向に発展する。iPhone 5もiOSも、事実そういう方向に向かっている。iOS6で、Siriが強化されようが、TwitterとFacebookと統合されようが、美しいHDビデオが撮影できようが、追加されるそれらの機能は、幹ではなく枝葉だ。本質的な変更ではない。そのため、今持っているiPhoneをそのまま利用し続ける人はずっと増えるだろう。

同じような例はいくらでもある。デスクトップOSシェアは、Net Applicationsの調査では、2012年3月でも、01年発売のWindows XPを利用しているユーザーがまだ47.1%もいる。09年のWindows 7の37.54%よりも、まだ上だ。世界の多くのユーザーや企業に、追加コストを支払って、最新のハードウェアに、最新のOSにする必要性を感じていない人たちがたくさんいると考えられる。マイクロソフトのGUI環境が一定の完成度を見せ、特定の使用用途にしか使っていない人であれば、それ以降のOSはオーバースペックであり、費用対効果に対して合わないと判断が行われているのだろう。

ガラケーでも起きている。NTTドコモが、ガラケーをこの夏からラインアップから外したとによって、特に、ガラケーに慣れていた年齢の高い層は、選択肢がなくなったことで苦労している。2012年2月に行われた調査でも、「スマートフォンをまったく購入したくない」、「あまり購入したくない」と答えているユーザーは3割もいる。これは11年とほとんど変化していない。一生ガラケーのままで事足りる人たちは、たくさん存在すると考えられる。

いつか来た道の繰り返し

キーノートでは、ハードウェアの凄さを示すために、美しいリアルタイムレンダリングされるレースゲーム「Real Racing 3」が紹介された。家庭用ゲーム機水準と変わらないという触れ込みで、たしかに豪華な画像だった。ただ、これもいつか来た道だ。PCビデオカードメーカーは、自社のチップ性能のすごさを示すために、同じようにゲームを使ってきた。それは最先端の技術ではあるが、世の中の大半の3Dゲームをやらない人にはどうでもいい技術だ。(レースゲームは家庭用ゲーム機で、大画面テレビを使って、大音響でやる方が個人的には圧倒的におもしろいと思う。ただし、Xbox360にハード性能は追いついたのでは、という指摘は出ている。この点はゲーマーにとっては重要)

一方で、データをクラウドにあげることは圧倒的に増えた。この2年間に、EvernoteとDropboxは必須のものとなり、出先で忘れては困るような情報や、データは片っ端からアップしておくようになった。次の焦点は、クラウドサービスでの戦争だろう。その点では、アップルはまだあまりいい回答を出せていないことはご存じの通りだ。

スマートフォンとしてのハードウェアの見てくれは、今後しばらく多くの人を驚かせるレベルには簡単に到達しないように思える。次に誰もが驚き、大騒ぎになるとすれば、「下敷きより薄く、息を吹きかけるだけで飛んでしまうiPhone」といった根本的な常識を覆すようなレベルの製品が出てくる時代だろう。もちろん冗談だが、そうした非常識なコンセプトの登場には、今とまったく違ったロジックが求められる。だが、いずれそう遠くない時代に、そんなハードがどこからか出てくるだろう。当然、その頃には、また大きくルールが変わる。

アップルにイノベーションがなくなったのではない。スマートフォンという分野に成熟が見えてきたのだと思う。ただ、私はiPhone 5を買うと決めている。やはり、ただのガジェット好きでもあるため、楽しみは楽しみだ。一方で、私のお気に入りで美しいiPhone 4は、今まで、フィーチャーフォンを使っていた家族の手に渡り、文鎮になることなく、まだまだ現役として働き続ける。そうでもしないと、次から次へとアップル製品に金を巻き上げられるを購入することへの理解は家族からは得られない……。

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT)、ライター  @kiyoshi_shin
めるまがアゴラにて「ゲーム産業の興亡」や、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」ビジネスファミ通ブログ「人と機械の夢見る力」を連載中

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