破綻した民主党の「エネルギー戦略」

2012年09月16日 23:46

政府のエネルギー・環境会議による「革新的エネルギー・環境戦略」が、18日に閣議決定される予定だ。仕事の関係で全文を読んだが、役所の文書でこんな出来の悪いのを読まされたのは初めてで、読んでいて気分が悪くなった。


なぜかPDFが保護モードになっていてコピーできないのも奇妙なのだが、この「戦略」はこう謳い上げる。

震災前、私たちはエネルギー社会の在り方として「原子力」への依存度を高めることを柱として、安定供給の確保を目指し、地球温暖化問題の解決を模索してきた。しかし、今回の事故の深刻な現実を直視し、事故の教訓に深く学ぶことを通じて、政府は、これまで進めきた国家のエネルギー戦略を、白紙から見直すべきであると確信するに至った。

気の毒だが、この「確信」は世界の専門家と違う。ヤーギンは「事故があってもなくても、もともと原発(軽水炉)には競争力がない」と書いているし、Mullerは「福島の事故はエネルギー政策にまったく影響を与えない」と断定している。この程度の事故で天地がひっくり返ったように大騒ぎしているのは素人だけなのだ。

第一の柱として「原発に依存しない社会の一日も早い実現」を掲げているが、なぜ特定のエネルギー源をわざわざゼロにして日本の選択肢をせばめることに「あらゆる政策資源を投入する」のか、さっぱりわからない。EU委員会などが一致して示しているように、原発は直接コストは高いが外部コストは低い電源なのだが、民主党は「原発のコストは、社会的コストを含めれば、従来考えられていたように割安ではない」と問題を逆に見ているので、出てくる政策は支離滅裂なものになってしまう。

「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」と書いているが、これは2039年までに原発を止めようと思えば止められるようにしておけばよい。今のまま原発を新設しなければ、2030年には原発比率は15%ぐらいになるが、それでも「稼働ゼロ」にしようと思えばできるから、この目標とは矛盾しない。つまりこれは抜け穴だらけで、目標として意味をなしていないのだ。

原発の直接コストは高いので、市場経済にまかせれば電力会社は原発をもう建設しないだろうが、それで「温室効果ガス25%削減」の国際公約は守れるのか。エネルギー安全保障は大丈夫なのか――といったことが問われなければならないが、ここでは「原発の代わりは再生可能エネルギーだ」という思い込みにもとづいて、太陽光や風力を今の8倍にするという空想的な目標を掲げる。それでも「2020年に5~9%削減(1990年比)となる」と、公約が守れないことを認めている。

おまけに「原発ゼロ」にするのに「核燃料サイクルは中長期的にぶれずに推進する」という。もんじゅは「研究を終了する」と明記し、実用炉の建設も行なわないのだから、核燃料サイクルを推進して生成したプルトニウムは何に使うのだろうか。これについて「戦略」は何も書いていない。「直接処分の研究に着手する」と書いてあることからみると、実質的に再処理は放棄する方針らしいが、それを明記すると青森県との約束違反になるので、曖昧な記述になっているのだ。

この文書は古川元久国家戦略担当相が「政治主導」と称して経産省を排除してつくったものといわれるが、結果としては官僚の作文以下の大学生のレポートのようなものになってしまった。さいわい次の政権は「原発ゼロ」を否定している自民党を中心とする政権になると思われるので、これはエネルギー政策としては意味がないが、民主党には2度と政権を託してはいけないということを示す記念碑的な文書となろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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