電子書籍の「笑」撃 売れない著者のぶっちゃけ話

常見 陽平

電子書籍関連のニュースがまた増えてきた。少し前になるが、楽天のkobo touch発売、海外でのAmazonの新Kindle発表など電子書籍をめぐるニュースをよく聞く今日この頃、読書の秋がやってきたが、皆さん、いかがお過ごしだろうか?この手のニュースが出るたび、「コンテンツ不足は出版社のせい」「コンテンツ提供を認めない著者が悪い」という話が出る。ちょっと待って欲しい。出版社も著者もそれなりに努力している。ただ、現状を考えるなら様子見せざるを得ないのだ。

電子書籍をめぐるぶっちゃけ話を徒然なるままに書き綴ることにしよう。


ここ数ヶ月の話題と言えば、kobo touchだろう。それも、いい意味ではなく、どちらかというと悪い意味でだ。すぐに10万個の販売を達成したものの、設定にPCが必要でサイトにアクセスが集中し混乱、日本語のコンテンツが当初の予定に対して大幅に足りず、しかも、多くは夏目漱石作品など著作権が切れた「青空文庫」だらけ、さらに大幅にコンテンツを追加したと思ったら楽譜だらけという、残念な状況が続いている。これが確信犯的な炎上マーケティングだったらすごいが、単にズサンなだけだろう。

そういえば、発売した頃、Facebookを覗いたら、つながっている楽天社員が実にわざとらしく、通勤中にkobo touchを使っている写真を載せていた。彼の数ヶ月分の投稿を読み返してみたが、読書ネタはそれだけだった。プロレスラー藤波辰爾が、マスクをかぶった平田淳二選手に対して言った名セリフ「お前、平田だろ?」風に、「お前、読書家かよ?」とツッコミたくなった次第である。

非難轟々だったので、どんな端末なのかとドキドキしてお店で実機を触ってみたが、1万円を切る値段だからしょうがないかなと思いつつ、個人的には使いやすいとは思わなかった。iPadは電車の中で使ってもかっこいいが、個人的にはこれを使うイメージがわかなかった。第一、まだ本格的に普及していないからしょうがないが、電車の中でkobo touchを使っている光景は前出の楽天社員くらいしか知らない。

電子書籍の話題になると「アメリカはもうとっくに電子書籍の時代に移行している」「コンテンツ産業で日本は乗り遅れる。今すぐ改革を急げ」「出版社の構造改革を」という話になる。普及しない原因の1つとして、コンテンツの充実があげられ、「出版社や著者よ、もっと頑張れ」という話になる。

この件、出版社も著者も実はそれなりに頑張っている。最近は書籍を出すとすぐに電子書籍の契約書もやってくる。書籍が出てから電子書籍化までの時間が短くなっている。

しかし、売れないのだ。いや、私は商業出版デビューしてからこの9月で5年で、毎年コンスタントに書籍を発表し、なんとか残っている方なのだが、決して売れている著者ではない。ただ、電子書籍関連の収入は面白いくらいに入らない。今までに電子書籍は数冊作ったが、ぶっちゃけたところ、売上は全部合わせても数万円にも達していない。そりゃ、お前が売れていないからだろと言われるとそれまでなのだが。

鶏が先か、卵が先かという話だが、頑張って電子書籍コンテンツを出せと言われても、出しても売れないわけだ。これでは食べていけない。もちろん書籍について、今の印税の仕組みがいいかと言うと、ベストだとは言えないし、出版社は著者を食わせるために存在するわけではないことは十分知っている。ただ、食べていけないものに、熱くはなれないのだ。

koboは早い段階で10万個を突破したそうだが、逆に言うと、持っている人が全員買っても10万部以上の売上はムリだということになる。他の端末にも配信できるのだろうが、それでも、大きな夢は抱けない。端末の普及状況や規格の統一は、電子書籍普及のネックだとよく言われるが、正直、頑張っても売れないのだということを見せつけられているように思う。

私自身も、読者として電子書籍は基本、買わない。読みづらいのだ。Amazonのマーケットプレイスや、ブックオフを使えば安く買えるし、売れるから困らない。

ただ、こんな私がよく買う「電子書籍」がある。それは、海外の論文だ(電子書籍の定義をどうするかにもよるが)。海外のサイトでは論文が数ドルからの値段で売っているのでこのPDFを良く買う。

もう1つ、そこそこ盛り上がりを見せているのは有料メールマガジンだ(これも、電子書籍かというと?だが)。これを広い意味で電子書籍と呼ぶとすると、話は少し変わってくる。ホリエモン、津田大介などのメルマガは有名で、内容も充実していて、ビジネスとしても成立している。もっとも、これも誰もが成功しているわけではない。私もやっているが・・・。どうやったら読者数が増えるのか、いつも頭を抱えている。

思うに、電子書籍に限らず、ネット関連の話は、いつも頭の中がお花畑状態の、残念な妄想だらけになりがちだ。電子書籍があれば出版社が要らないとか、何でも著者で売るべきだという議論があるが・・・。現状の質を前提とするなら、「ウソおっしゃい」と言いたい。コンテンツプロデュース力、読者の集客力という部分では、形式は変わっても出版社的な役割はますます重要となることだろう。

意識の高いネット礼賛論者に多いのが、何でもネット化すれば上手くいくと思っている人たちだ。実はネットに詳しそうな人が、ネットをまったく分かっていないことが日本の課題である。ネットに関わるビジネスは、ちゃんと人を「集めて」、「動かして」、「つなげる」というこの3つのアクションを考えないとダメなのだ。実はネットで成功している企業はここにお金とパワーをかけている。ネット化すれば上手くいくという発想から早く脱却して欲しい。電子書籍の場合も、読者を集める(その売場に呼んでくる)、探してもらう、購入を決め手お金を払ってもらうという3つのアクションを意識しないとダメだろう。

暗い話になってしまった。やや明るい話をすると、今後、端末の普及などによって市場が巨大化するなら、話はかわるだろう(あまりにも当たり前すぎて、書くのも恥ずかしいが)。また、電子書籍向けコンテンツの充実も鍵ではある。

思うに、電子書籍がもたらすものというのは、コンテンツや課金の再定義ではないか。今まではコンテンツにお金をかけすぎていなかったか、著者にお金を払いすぎていなかったか、過剰な品質を求めていなかったか、と。コンテンツを安く買える世界をつくること、玉石混交でユーザーが選び納得する世界をつくること、こうすると話は変わってくるだろう。それこそ、必要なページだけ買うという世界、か。また、これは実際に存在するが、「こんな僕でも絶対にモテる法則」「人生を勝ち抜く オレの成功哲学」のようなコンテンツを高く売りつけるというのもアリなのだろう。薄利多売ならぬ、多利少売というわけだ。実際、1本1万数数千円のアプリのような電子書籍のようなコンテンツをみたことがあるが、そういうやり方もありなのだろう。

ただ、頭の固い保守的な中年の私としては、こういう世界観にはあまり共感できないのだけど。

というわけで、電子書籍に関しては、今後有望と言われつつも、読者としても著者としても、激しく傍観せざるを得ないのだ。

電子書籍で大儲けする方法があったら、こっそり教えて欲しい。

PS 9月28日に過激なタイトルの新作を発表するのだが、意思を持って、電子書籍化をしないことにした。どんな新作なのか、なぜ電子書籍化しないのか、そのあたりを9月22日にニコ生で語るので、時間があったら傍観して頂きたい。