日中関係の何が悪化したのか

小幡 績

今回の事件を日中関係全体の悪化と捉え、その先の議論へ走るのは誤りである。まずは、今回の事件の原因、もたらされた現象、今起きている事柄について考え、その後で、対処法を考えるべきである。

今回の問題は、すべて石原都知事の責任である。

彼が、なぜか、選挙のためでも何でもなく、自分のかっこよさに酔いしれるために行った、東京都による購入の意図の宣伝が、すべてをもたらしているのである。


尖閣の問題は解決しようがない。

日本が譲ることはあり得ないし、国際社会でも理論的には日本側に立つのが圧倒的多数派だ。しかし、中国は、日本に対してだけでなく、すべての領土拡張戦略を採っているから、ここで譲るはずがない。

だから、尖閣は、この事件の前でも後でも、争いは残る。

問題は、ことさら島の購入をぶち上げたために、中国政府も強硬姿勢を示さざるを得なくなったことだ。

これは誰も得をしない。

次に動いたのは、両国の国民感情だ。

まず中国が激しく動いたから、暴動と略奪が起き、ともに明らかに便乗略奪も見られたが、いずれにせよ、世界的に中国の暴動は有名になった。

これも中国には、経済的にも政府にとってもマイナスだ。

日本企業が損害を受けているが、雇用は現地の人々であり、またその生産、輸出で中国はもちろん経済に付加価値が生み出されているから、大きな損失だ。今後の対中投資も減るから、いいことは一つもない。

したがって、今後、日中関係が政府レベルで、国同士のレベルでは悪化することはない。

もともと外交とは友人関係ではなく、戦略上のビジネスのつきあいだから、仲が良いも悪いもない。お互い利用しているだけだが、今後も利用価値は今まで通りあるだろう。ただ、今回の事件によって、お互い、利用するコストが上がってしまっただけのことだ。

日本企業も日本政府も、石原都知事に対して、損害賠償請求をするべきである。

同時に、いまだに、都による保有が一番妥当だったと発言する橋下市長は、国を良くすることなど全く考えてないことを吐露した。彼の発言はすべて権力を得るための道具に過ぎないことをすべての国民が知ることになった。

問題は、一部の国民が知ってはいても理解したくないという思考停止に陥っていることだ。ただ、この呪縛から、時間と共に徐々に解放されていくだろう。