海外のコンテンツ輸入規制 -- 中村 伊知哉

アゴラ編集部

2012年3月から7月まで開催された総務省「コンテンツ海外展開協議会」。

メンバーはNHK、キー局各局、WOWOW、東アニ、スカパーJSAT、吉本興業、電通、ホリプロ、音事協、手塚プロ、住商、物産、博報堂、ATP、そして政府からも総務省、外務省、経済産業省、文部科学省、国土交通省、官邸国際広報室、内閣官房国家戦略室がメンバーを出してテーブルを囲んでいます。ぼくが座長です。議論の場というより、アクションを起こすための企画会議です。


コンテンツの海外展開は、これもぼくが会長を務める知財本部コンテンツ調査会でもメインテーマとなっていて、政府はあれこれ施策を考えています。ただ、昔のように業界に補助金つけて行ってこいみたいな途上国のような政策は流行らない。民間ができることは民間ががんばる。それよりも国がすべきことは、海外での海賊版対策や輸入規制解除のように、国でなければできないような政治、外交マターを推し進めること。

そこでまず、諸外国のコンテンツ規制はどうなっているか。三菱総研のコンテンツ規制に関する資料を基にメモを書いてみます。

映画やテレビなどのオーディオビジュアル分野では、市場の自由化を求めるアメリカと、文化的表現の多様性を理由に市場開放に反対するフランスの対立という基本スタンスがあります。ガット・ウルグアイラウンドの最終局面では、新顔のクリントン政権と老獪なミッテラン政権とがぶつかり、フランス側が押し切るという場面がありました。現在のWTOドーハラウンドでも自由化の審議は続いています。

アメリカや日本では海外の放送コンテンツに関する規制は存在しません。

これに対しEUはEU指令で放送時間の50%をEU域内で制作されたコンテンツとするという規制があります。

イギリスは、EU指令に基づき、放送時間の50%はEU内で制作されたコンテンツ、放送時間の10%は独立の制作会社によって制作されたコンテンツとすることを義務づけています。イタリアも同様の規制を敷くうえ、20%の時間はイタリアの映画に当てることを求めています。

フランスはより厳しく、EU内制作を60%以上とするとともに、フランス語の番組を40%とすることを義務づけることとしています。さらに、プライムタイムの放送のうち、50%以上をEU内で制作されたコンテンツ、30~35%をフランス語の番組とすることとしています。

中国は、外国のテレビドラマと映画は全放送時間の25%以下、その他の外国番組は全放送時間の15%以下、ペイテレビでも外国番組は30%以下と制限しています。また、地上波では、外国番組はプライムタイム(19:00~20:00)の放送が禁止されています。

外国のアニメは全放送時間の30%以下で、外国製アニメ輸入業者には同時間の国内アニメ制作義務があります。また、外国アニメは17:00~19:00の時間帯、外国映画は20:00~22:00の時間帯の放送が禁止されています。

韓国では、外国番組は地上波テレビ又はラジオ放送時間の20%を超えてはならないこととされています。外国映画の放送時間を地上波・ケーブル・衛星放送用の映画全体の75%、外国アニメの放送時間を地上波放送用のアニメ全体の55%、ケーブル・衛星放送用のアニメ全体の65%、ポピュラー音楽の放送時間を全ての音楽コンテンツの40%に制限しています。

台湾も外国番組はケーブル放送では80%まで、衛星放送では30%までとしています。ただし、80%を60%に規制強化する法案が通過する見込みとのことです。

アジアにはまだ規制が残っているわけですが、中国はさらに管理色を強めているようです。2012年2月には国家広電総局が通達を発出、19:00~20:00のゴールデンタイムでの海外ドラマの放映を禁止しました。海外ドラマの制作国比率の管理も強化しているそうです。

一方、映画では、米ホワイトハウスの発表によれば、年間20本に輸入制限されていた規制について34本への緩和がなされることとなり、増加分の14本(3DまたはIMAX規格)は海外制作会社が受け取れる興行収入の取り分が従来の13%が25%にアップされることになったそうです。これは2007年に米国がWTOに提訴し、是正勧告が出された後の交渉の結果です。

もちろん、インターネットによって映像が流通しているため、テレビ番組などの規制は迂回しやすくなっている状況もあります。海外のコンテンツ規制緩和に向けて政府のアクションを強めてもらう必要はありますが、同時に、メディアやコンテンツビジネスの変化に伴って、こうした規制がどう変容を遂げていくかも注目したいと思います。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年10月4日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。