筆者は、最近、愛機のiPhoneを落としてしまった。最初はどうしたものかと、とても不安になってしまったのだが、ほとんどのデータがクラウド上にあったため、意外と困ることはほとんどなかった。そして、せっかくなのでAndroidの携帯を買ってみた。Galaxy S IIIで、キャリアはdocomoである。さて、使ってみた感想であるが、正直言って、iPhoneの出来の良さを再確認することになってしまった。このことは、落としたiPhone4Sが戻ってきて、ますます確信してしまった。ちなみに筆者は、様々なGoogleのサービスを無料で使わせて貰っており、また企業文化などの観点でも、AppleよりはるかにGoogleの方が好きである。それでも、やっぱりAppleの製品は一歩先を行っている、と認めざるをえないのだ。
さて、AndroidよりもiPhoneの方がよく出来ていると思う理由は主にふたつある。ひとつ目は、やはりiPhoneの方がタッチパネルが素速くなめらかにスクロールするのである。これはツイッターをやるにしても、ウェブ・サーフィンをやるにしても、とても気になるポイントである。ハードウェアのスペックはGalaxy S IIIの方がiPhone4Sよりも、はるかにパワフルであるにも関わらず、一昔前のiPhone4Sの方が速くてなめらかに動くのだ。
ふたつ目は、Androidのバッテリーの減り方が異常に早いことだ。これは筆者の使い方の問題なのかと思って、いろいろ調べたのだが、やはりAndroid端末のよく知られた問題のようだった。というか、iPhone4Sのバッテリーの持ちは良すぎるのだ。
実は、筆者は、メインのPCはWindows XPとWindows 7だか、Mac Book Proも使っている。iTunesや写真編集が主な用途だが、たまにMacで原稿も書いている。こちらのMacも、Retineディスプレイでない、ひとつ昔のモデルだが、いつも思うのだが、やはりMacのフォントやグラフィックはスペック以上にはるかに綺麗なのだ。
世間の評論家は、こういったApple製品の先進性をスティーブ・ジョブズの偉大さに結びつけて語っているのだが、筆者は正直言って、スティーブ・ジョブズとはあまり関係ないと思っているし、個人的にはスティーブ・ジョブズは嫌いだ。
IT評論家はITのことがよく分かっていないので(よく分かっていたら自らプログラマになればよいので、評論家にはならないだろう)、スティーブ・ジョブズの神格化などで適当なことを書いているが、Apple製品の成功は、Appleという卓越したソフトウェア会社がたまたまハードも作っていた、という偶然によるところが大きいと思っている。
筆者も、昔はエンジニアリングの仕事をしていたのだが、その経験から言わせてもらうと、Apple製品のすごさは、OSレベルでの徹底的なソフトウェアの最適化に尽きる、と思う。Appleというソフトウェア会社は、自社でたまたまハードウェアもデザインしていた。AppleのOSなどの基本的なソフトウェアの設計は、iPhoneとMacというたったふたつのハードだけを考えて、この決め打ちされたハードに対して、プログラマが徹底的にソース・コードを最適化できるのだ。
その点、WindowsやAndroidは違う。無数の互換機に対して正常に動くようにソフトウェアを設計しなければいけないので、そのような細かい最適化はできないし、また、無意味だ。
この違いが、タッチパネルのスムースなスクロール、スピードなどに現れる。そして、バッテリーの駆動時間は、まさにプログラマが、徹底的にハードに対して最適化できるからだ。また、同じ解像度のディスプレイでも、MacはWindowsよりはるかにフォントもグラフィックも綺麗なのだが、それはAppleが液晶までデザインしているからに他ならないのだ。Appleは液晶画面の滲み方のクセまで利用して、フォントなどを最適化できるのだ。どんな液晶画面がやってくるか分からないWindowsやAndroidとは違うのだ。
昨年、Googleがモトローラ社を買収した時は、ITが分からないITのアナリストは、特許紛争で優位に立つため、などと的外れのことをいっていた。しかし、Googleは、こういうAppleの強みをよく理解していたのだ。だから、Googleは自らハードまでデザインする必要があると考えていたのだ。そして、案の定、GoogleはNexus という自社のハードをリリースしてきた。続いて、AmazonもKindle Fireを発表した。今や、GoogleやAmazonが、自社でハードウェアの開発までやるようになっているし、そこまでやらないと世界の競争で勝てないのだ。
もはやソフトウェアとハードウェアを別々に開発すればいい時代ではないのだ。世界のハイテク産業はそういう競争をしているのである。果たして、日本のメーカーはこの新たな競争に生き残れるのだろうか。