ウェブで誰が政治を動かすの? --新田哲史

2012年12月10日 07:30

●「持っている」津田大介氏

衆院選と都知事選は後半戦に入った。そんな中、津田大介さんの『ウェブで政治を動かす ! 』(朝日選書)を読んだ。え? 見出しでもう分かるよ、コバンザメ的商法で釣るな、って? ははは、バレたか(笑)いや、本に感心したのは本当ですよ。


津田さんの本を読むのは、『Twitter社会論』(洋泉社)以来だから3年ぶりだ。刊行のタイミングで解散総選挙。津田さんはやはり「持っている」。ネット選挙が「先進諸国と比べて10年以上遅れている」(本より)という状況を打開し、政治のウェブ活用で民意の可視化が政策決定に影響するという方向性を提示。第1章を一読した時点でジャーナリストとしての格段の進化を感じた。

ご本人は以前、政治に興味はなかったというが、文化庁に専門家として招かれるなど、著作権行政の政策決定過程を間近に見たのが転機だったようだ。一部政治家の談話がやや目立つ感はあるが、永田町、霞が関から近年蓄積してきた人脈、情報の成果を存分に振るっている。だからこそ単純なネット選挙導入論ではなく、ネット解禁が簡単に進まない現実、ネット世論のポテンシャルと限界も冷静に分析している。このあたり、同じITジャーナリストでも、新聞とテレビが2011年に滅亡するかのようなタイトルの著作を数年前に出し、若手記者を不安にしただけの誰かと違い、地に足がついている。

●ネット選挙へ本腰?

さてネット選挙解禁に一石を投じているのは津田さんだけではない。今回の総選挙、新聞・テレビのネット選挙を模索する動きに真剣味が増した印象を抱くのは筆者だけだろうか。テレビ東京のWBSは公示3日後に特集を組み、日経は7日付夕刊の1面と9日付朝刊の2面で立て続けに報道。毎日新聞は、ネットユーザーが自分の考えと候補者の政策一致度を確認できる「ボートマッチ」のサービスを5日から開始。利用回数は2日間で10万を数えたそうだ。SNSが社会的に普及した割に、62年前に制定された公選法のせいでネット選挙が解禁されないことへの不満、米大統領選でビッグデータ・マーケティングの手法を導入し有権者の声を分析する選挙戦が展開されるなど日本がますます置き去りにされかねないことなど、既存メディアもヤバイと意識し始めたのだろう。来夏の参院選で「ねじれ国会」が解消し、公選法改正への審議環境が整えば、遠くない将来、ネット選挙が解禁されると思いたい。

しかし仮に解禁となっても肝心の有権者が政治への関心を高めなければ意味がない。津田さんの本の終盤の一章が「君が政治を動かす」とネーミングされた裏には、そんな思いがあるのではないか。総選挙では1993年以降、20代の投票率が5割を切り続ける中、筆者はネット選挙解禁が若い世代の投票率アップの“特効薬”になる気はしない。有権者個人だけでなく、若い人が多いIT業界では、企業というコミュニティー単位でも消極さを感じる部分がある。政治が自社の市場環境に及ぼす影響は本来見極めなければならないはずだが、記者時代から含め、そうした新興ITの方々の政治への警戒心、あるいは無関心を何度も見てきた。特に団塊ジュニア世代(72~74年生)あたりは、ライブドア(LD)事件のトラウマなのか「出る杭は打たれる」とばかりに政治やメディアなど既存権威へのコミットを嫌がる人もいる。元LD幹部で、現在は株式会社・経営共創基盤に所属する塩野誠氏(75年生)は自著『リアルスタートアップ~若者のための戦略的キャリアと起業の技術~』で、「間違ってもTシャツを着て、『稼ぐが勝ち』と言ってはいけません」と起業志望者に指南。シニカル過ぎて逆に笑える。

●ウェブで政治を動かす前に・・・

一方、新興業界でも、社会貢献の一環としてポジティブに政治と向き合う動きもある。楽天の三木谷会長が代表理事を務める新経済連盟がネット解禁を各党に申し入れたのは、その代表例。また、同連盟理事の岩瀬大輔氏が副社長のライフネット生命は9月、「ネット選挙に関する調査」を発表。PR目的の企業調査が多い中、本業との相乗効果が見えづらくてもネット選挙を考える材料を提起したのは目を引く。

すでに政界に転出したが、米系コーヒーチェーン店の日本法人の創業者でもある参院議員は8日付のブログでユニークな取り組みを紹介していた。え、誰だかバレバレだって?一応、選挙中だから特定政党の名前を出さないように配慮したのよ・・・(汗)。ま、ブログの話に戻ると、クリスマスの催しの抽選会で「一緒に街頭演説する券」を引いた友人を引っ張り出したという。良い意味でゲーミフィケーション(問題の解決にゲーム的な要素を生かすこと)による選挙への関心の高め方を示唆しているのではないか。考えてみれば、三木谷、岩瀬、同参院議員の3氏に共通するのは在米経験だ。日本よりも気軽に政治を議論するカルチャーを体感した影響もあるのかな。

さあ、投票まで一週間を切った。主要政党が2ケタを数え、現行制度で過去最多の立候補者が名乗りを上げる総選挙。筆者も選択肢の多さに悩みは深まるばかりだが、まずはウェブで政治を動かす前に、リアルで政治を動かさないとね。投票には行きましょう。

新田 哲史(にった てつじ)
メディアストラテジスト

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑