「石あたま判決」を下した国民審査対象の裁判官(その1)

2012年12月14日 23:32

「最高裁 石のお城に石あたま」。
1974年に当時の最高裁裁判官がひねった自虐的な句である(山口進、宮地ゆう「最高裁の暗闘」40頁)。「石のお城」は最高裁のHPの写真のとおりである。「石あたま」については、16日の衆院選挙と同時に実施される最高裁裁判官の国民審査に関するブログにツイートされた、「ロクラクとまねきTVの裁判官は絶対×」というつぶやきに代表されるように、昨年、最高裁が下したこの二つの「石あたま判決」がすぐ思い浮かぶ。


いずれも海外に居住する日本人が、ネット経由で日本のテレビ番組を録画して、視聴できるようにするサービスだった。テレビ局がサービスを開発したベンチャー企業を著作権侵害で訴えたが、知財高裁は侵害を否認した。しかし、最高裁はこれを覆し、侵害を認める判決を下した。

「石あたま判決」とする第1の理由は、クラウド時代に逆行する判決だからである。クラウドTVサービスは三つのシフトを可能にするサービスとされている。録画しておいて後で視聴するタイムシフト、出張先など遠隔地で視聴するプレースシフト、テレビだけでなく、パソコン、スマホ、タブレットなど種々のデバイスで視聴するデバイスシフトである。

まねきTV事件、ロクラクII事件ではプレースシフトが争われた。いずれも親機を事業者側、子機をユーザ側に置いて、ユーザの指示に従って親機で録画した番組をネット経由で子機に転送するサービスだった。

ロクラクII事件では、録画の主体が事業者かユーザかが争われた。ユーザであれば、私的複製なので複製権侵害にならないからである。最高裁はテレビアンテナで受信した放送を親機に入力するのは事業者なので、録画の指示はユーザがするとしても、録画の主体は事業者であるとした。

まねきTV事件では、録画した番組をユーザに送信する行為が、著作権者の持つ公衆送信権を侵害しないかが争われた。最高裁は親機が子機に対して1対1の送信を行う機能しか有しなくても、誰でもユーザになれるとの理由で、ユーザは公衆にあたるとされ、公衆送信権を侵害するとした。

こう見てくると、両判決のうちでもまねきTV判決がクラウド・サービスに、より厳しい判決であることがおわかりいただけると思う。三つのシフトのうち、タイムシフトはユーザ宅の録画機だけでも可能だが、米国では番組を事業者のサーバに録画するサービスが主流になりつつある。三つのシフトともネットを経由する必要があるわけだが、事業者からユーザへの送信行為が公衆送信権を侵害するおそれがあるとなると、クラウド・サービスそのものが成り立たなくなるからである。

このようにクラウド時代に逆行する判決だったため、筆者が判決直後、「まねきTV事件」最高裁判決でクラウドも国内勢全滅の検索エンジンの二の舞か?で指摘した状況が、クラウドTVでも顕在化しつつあることが、石あたま判決とする第2の理由である。米国では、まねきTV、ロクラクIIとは正反対の結論を出したケーブルビジョン判決が追い風となって、クラウドTVサービスが次々と生まれている。

クラウドTVのエリオと広告飛ばし機能付きデジタル・ビデオ・レコーダーのディッシュ・ネットワークは、テレビ局の訴訟攻勢にあって、裁判の結果によってはサービス停止のおそれがある。しかし、まだ訴訟の洗礼を浴びていないサービスも出現した。クリスマス商戦に間に合わせて11月1日にサービス開始したボクシーTVである。

ユーザは録画機を99ドル(8000円)で購入する必要があるが、番組は録画機ではなくクラウドに録画・保存される。2チャンネルまで同時録画可能で、録画容量は無制限。テレビだけでなく、パソコン、タブレット、スマホからも再生できる。これだけのサービスが月額15ドル(1200円、ただし、今すぐ加入すれば3ヶ月間無料、その後も月額10ドル=800円)で受けられるため、この時期に雑誌が掲載する、おすすめのクリスマスプレゼント特集でも紹介されるなど話題を呼んでいる。

まねきTVは最高裁判決の後、ビジネスモデルを変更して、サービスを続行している。ユーザにアンテナなしで、地デジ・BSデジタルを視聴できる通信事業者のサービスに加入してもらい、機器をあずかるだけのハウジングサービスに切り替えた。自ら放送の入力をしないことで、公衆送信権侵害のおそれを回避したが、通信事業者のサービスへの加入料が上乗せされて、ユーザの負担は月10000円を超え、以前の倍以上に跳ね上がった。

初期費用は機器の購入費が30000円、まねきTVへの入会金10000円の計40000円である。上記のボクシーTVと比較すると、初期費用が5倍、月額使用料は7倍となる。つまり、海外や出張先で自宅のテレビを視聴するのに、日本人はアメリカ人の5倍以上の料金を支払わされるわけである。それでも東日本大震災の時には視聴され続けたそうである。こうした根強いニーズがあるにもかかわらず、1対1のやりとりでも、ネットを通じれば著作権者の持つ公衆送信権を侵害するという石あたま判決のために、ユーザは不便を強いられているのである。

石あたま判決とする理由はまだ続くが、長くなるため(その2)に回すとして、石あたま判決を下した裁判官のうち、16日の最高裁裁判官の国民審査の対象となる裁判官、つまり国民審査で×をつけるべき裁判官は以下の4人の裁判官である。
  岡部 喜代子、大谷 剛彦(まねきTV判決)
  横田 尤孝、白木 勇(ロクラクII判決)

城所岩生

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