安倍晋三氏は偉大なるケインズ信奉者たちの頼みの綱か? --- ノア・スミス(Noah Smith)

アゴラ

日銀の独立性を廃し、大規模な拡大・緩和・インフレ誘発といった金融政策導入を日銀に強要している安倍晋三氏の発言に、多くの人が浮き足立った。私はそうではなかった。安倍氏は「円安誘導の口先介入」をしているだけだ、と私は述べた。報道をみても今やこれは一般的な通念になったようだが、ポール・クルーグマン氏が指摘しているように、口先介入による円安誘導それ自体は(革新的ではないにせよ)良策なのである。

そして今ここに安倍氏がケインズ流のマジックを持ち込んできた。1千億ドルを超える「緊急経済対策」である。


本気なのだろうか? もちろん、本気だ。そして、おそらくやり抜くだろう。したがってケインズの信奉者たちは喜んでいるに違いない。しかし、日本の新しい「経済対策」の根拠が、ケインズ流の概念とは全く関係ない、ということにも気がつくべきである。これはケインズ一派の概念ではなく、伝統的な自民党、その旧来の支持基盤との間のもたれあいを再構築することにつながっている。

安倍晋三氏が率いる「自由民主党」(この名前を見るといつも「神聖ローマ帝国」を思い出す)という政党は、55年間(日本の)政権を握っていた。自民党は、官僚と大企業によって支援されていた。つまり「鉄のトライアングル」と呼ばれる政官財の癒着構造における残りの二要素である。しかし、日本は民主主義国家なので、自民党は票を獲得する必要があった。……日本の選挙では活動資金と選挙活動に関する法律は非常に厳しく、米国人が行ってきたような手段を実行するのは容易ではなかった。

その代わり、政治学者のイーサン・シェイナー氏が彼の名著『競争なき日本の民主主義:一党支配体制における野党の失敗』(概要はこちら)で説明するように、自民党は「恩顧主義」と呼ばれるシステムに頼ってきた。日本の中央政府は、基本的に自分たちのために選挙運動をしてくれる団体に直接、助成金を与えてきたのである。

このグループの中のボスは建設会社だった。建設会社は地方で大量の肉体労働者を雇用してきた(米国と同様、地方には不均衡な一票の重みがある)。こうした労働者の一部は兼業農家の男性たちであり、彼らの一部はティーパーティーのような右派団体に属し、これらの建設会社を暴力団が所有していることも多い。

自民党は金をばらまき、建設会社は基本的に自民党の政治家のための選挙運動要員となり、家を一軒一軒訪ね歩き、ポスターを貼り、電話をかけたりする。これは相互依存関係であり、何十年も続いた。1990年代に、財政刺激策として支払われた巨額の(そして無駄として知られている)建設浪費のほとんどはこれらの団体に渡った。

2000年代初頭に、自民党の有名な一匹狼の改革主義者、小泉純一郎氏が権力を握ったことで事態は変化した。小泉氏は日本の選挙システムを微調整し、家を個別訪問する私兵組織を使って政権を勝ち取ることはかなり困難になった(追記:このシステム改正は実は、自民党の分裂により連立野党が短期間政権を握った1990年代初期に始まったものである、とある人がコメントで気付かせてくれた)。小泉氏はまた建設支出に対しても厳しい措置を取った。この引き締めは金融政策の緩和によって相殺された。日銀は(実に世界初の)量的緩和政策を開始したのである。

とにもかくにも選挙システムの微調整により「恩顧主義」の助成金支出は減少し、安倍氏が最初に総理大臣になったときに自民党の支持は壊滅的となり、(それが)民主党を政権に導き入れることを助け、自民党の55年間の支配を終わらせた。しかし、現在では自民党が政権に戻り、彼らは(かつての)自分たちの支援基盤を再構築したがっている。このことは、先に述べた建設企業(ひいては、地方の右派ティーパーティーに似た団体と暴力団)とのもたれあいの関係を再構築することを意味する。自民党は「みんな、前みたいにやろうよ」と呼びかけたがっているが、私はそれが「緊急経済対策」の主な理由なのではないかと思っている。

景気刺激策が日本にとって悪いアイデアだ、と言っているわけではない。結局のところ金は使われ続けている! ただし、日本の経済が回復した時には、助成金による建設費支出が続くことが予測される、ということである。この見立てにより、現状のビジネスに対する期待に影響が出て、この刺激策の現状の効果をいくぶん減少させるはずだ。

……また、日本が現在、(景気)刺激策を必要としているかどうかという別の疑問もある。一方では、1990年代の予算のばらまきには、最終的に積み上がったその額に見合う効果があったとは言えないものの、バラまかなかった場合に比べれば、日本のバブル崩壊後の痛みはより緩和されたのではないか、と私は考えている。もちろん、金利はゼロ金利下限であり、日本はちょっとくらいインフレーションを利用することができるかもしれない。他方、日本の失業者率はわずか4.2%であり、日本経済は実際にはそんなに景気が悪いわけではないのかもしれない。日本のインフラは(我が国:米国のインフラとは違い!)供給過剰であり、さらにその支出の政治的側面から考えると、この刺激策支出の多くは、おそらく(例えば米国でのインフラ支出よりもずっと)無駄になるだろうし、それが乗数効果を引き下げることになる……。

繰り返しになるが、ようするにケインズ流政策の果敢な実験者としての安倍氏の顔は、(日本の)伝統的な重商主義、協調主義の政策を隠すためのものである、と私は考えている。その政策がどの程度うまく機能するか、これからわかってくるだろう。


編集部より:この記事「Is Shinzo Abe the Great Keynesian Hope?」はノア・スミス氏のブログ「Noahpinion」2013年1月11日のエントリーより和訳して転載させていただきました。快く転載を許可してくださったノア・スミス氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は、同氏のブログをご覧ください。