「アゴラの記事はむずかしいので、こどもにもわかるような記事を書いてください」という一部の人のおねがいで、今週から月曜に「アゴラこども版」を出すことにしました。これは池上彰さんの「週刊こどもニュース」みたいに小学生でもわかるように基本的なことばをやさしく解説するものです。第1回は、このごろよく話題になる「デフレ」です。
デフレとはデフレーション(deflation)の略で、これはインフレーション(inflation)の反対です。インフレは物価(いろいろな物のねだん)が上がることですが、デフレはその反対に物価が下がることです。政府は「デフレを止めよう」といっていますが、そもそも日本はデフレなのでしょうか?
日本の消費者物価上昇率(前年比%)
物価のものさしにはいろいろありますが、よくつかわれるのは消費者物価指数で、これはみなさんが買い物をするときのねだんです。上の図は物価が前の年より何%上がったかをグラフにしたものですが、1970年代の「石油ショック」のときは20%をこえる大変なインフレで、人々の生活はめちゃくちゃになりました。それにくらべると、2000年代の物価上昇率は平均するとほぼ0%で、物価は「安定している」といったほうがいいでしょう。
デフレはよくないのでしょうか? そうともいえません。みなさんのお父さんの給料がおなじだとすると、物価が下がったほうがいいですよね。たとえば昔は6000円だったジーンズがユニクロで2000円になると、6000円で3本買えるのですから、お金持ちになったのとおなじです。これを「ユニクロ型デフレ」とかいってけなす紫の髪のおばさんのまねを、よい子はしてはいけません。
ではどうして安倍首相は「デフレを止めよう」といっているのでしょうか? よくわからないのですが、景気がわるいと人々があまり買い物をしないので、物価は下がります。それを逆に「物価が下がると景気がわるくなる」と思っているのではないでしょうか。
これはかんちがいです。たとえば物価がぜんぶ同時に1割下がると収入は1割へりますが、そのお金で買える物のねだんも1割下がるので、「その収入で何が買えるか」というねうちは変わりません。これは「100円玉」を「1円玉」と名前を変えるような「デノミ」とおなじで、デフレで景気はよくもわるくもなりません。
でも物価が同時に下がらないと、物を売るお店は困ります。物価が下がって売り上げがおちる一方で、お店でやとっている店員さんの給料が下がらないと、お店のもうけがへってしまいます。だからデフレは会社にとってはこまるのですが、10年以上もデフレがつづくと会社も給料を下げているので、ほとんど影響はありません。
「デフレになるとお金のねうちが上がるので、お金をもっていたほうが得だからつかわない」という話もかんちがいです。デフレになるとお金のねうちは上がりますが、上に書いたように、そのお金で買える物もふえるので、消費(買い物)はへりません。じっさいに日本のひとりあたり個人消費はふえ、家計貯蓄率(貯金する割合)はゼロに近づいています。
こう考えると、なんのためにデフレを止めるのかよくわからないのですが、たぶんこれは今までの自民党の景気対策がバラマキだと評判がわるいので、「デフレ脱却」というあたらしい名前にしたのだと思います。どっちにしても中身はおなじなので、政府が10兆円もお金をばらまいたら、景気は一時的にはよくなるでしょう。でもお金がなくなったら、もとにもどってしまいます。よい子はそういうむだづかいはやめましょう。
追記:小学生にはむずかしいといわれたので、少しやさしく書き直しました。