円安って何?(アーカイブ記事)

円が急激に安くなり、一時1ドル=128円台という20年ぶりの水準になりました。これは国会で鈴木財務相が「悪い円安だ」と答弁し、日銀の黒田総裁も「急速な円安の場合にはマイナスが大きくなる」と同調したことがきっかけです。今年1月5日の記事のデータを更新して再掲します。

Q1. 円安って何ですか?

外国為替市場では、いつも円とドルなどの外国のお金が交換されています。これを為替(かわせ)とよびます。これは100円玉を10円玉10枚と両替するのと同じで、要するに円とドルを両替しているのです。

100円玉はいつでも10円玉10枚と両替してもらえますが、外国為替は変動相場制なので、1ドルが何円と両替してもらえるかはその時によってちがいます。この取引で円が安くなることを円安といいます。今年の初めは1ドル=115円でしたが、そこから4ヶ月で13円も下がったわけです。

Q2. なぜ1ドル=115円が128円になると円安なんですか?

これは1円=1/115ドルが1/128ドルに下がったのですが、分数で書くとややこしいので、ひっくり返してドル中心に書いているのです。次の図は1ドルが何円かをグラフにしたもので、下のほうが円安です。2002年には130円をつけましたが、今回の円安はそれ以来です。

名目為替レート(ドル/円)日銀調べ

Q3. 円安になるとだれがもうかるんですか?

ドルをもっている人はもうかります。1ドル=115円のとき、1万ドルを115万円で買った人は、今なら128万円で売れるので13万円もうかります。これは預金している人も同じで、今年の初めにドル預金した人は、今それを引き出すと4ヶ月で11%、年率34%のもうけです。でもドルは下がるかもしれないので、よい子はドルを買ったりしてはいけません。

Q4. 為替レートは何で決まるんですか?

昔は為替レートは貿易黒字がゼロになるように決まると考えられていましたが、外為市場で動くお金の99%は投機資金なので、貿易黒字とは関係ありません。ドル円レートは短期では、図のように日米の金利差に連動して動いています。

ドル円レート(左軸)と米国債の金利(右軸)ブルームバーグ

日銀が国債の金利は0.25%以上には上げないと決めているので、日本の国債はほぼゼロ金利ですが、米国債の金利は2.8%以上です。ゼロ金利の日本でお金を借りてドルを買い、金利の高いアメリカで貸せばもうかるわけです。

Q5. 日本も金利を上げればいいんですね?

はい。でも日銀は521兆円も国債を買っているので、金利を上げると民間銀行に大きな評価損(こども版を読んでください)が出ます。また民間銀行から借りている日銀当座預金も538兆円あるため、この金利が1%上がると毎年5.3兆円の損が出ます。このため、金利を上げられないのです。

ただ実際に為替相場を動かすのは「実質長期金利」です。これは長期金利-予想インフレ率なので、名目金利ほどの差はありません。

日本:0.2%-0.8%=-0.6%

アメリカ:2.8%-2.9%=-0.1%

ですから、アメリカのほうが0.5%高く、理論的にはこの差がゼロになるまで円が売られ、ドルが買われます。アメリカの金利は今年中にあと2%ぐらい上がるとみられているので、日本の金利が上がらないと、円はまだ下がると思います。

Q6. 円安で物価はどうなるんですか?

円が安くなるとドルが高くなるので、輸入物価は上がります。たとえばガソリンの値段が1リットル1.5ドルだとすると、去年は1.5×110=165円でしたが、ドル建ての原油価格が同じだとしても今年は1.5×128=192円になります。おまけに原油や天然ガスの値段も上がっているので、電気代も去年より2割近く上がっています。

Q7. それなのに円安で喜ぶ人がいるのはどうしてですか?

円安になると日本から輸出しやすくなるからです。たとえば日本で100万円の自動車は、去年はアメリカでは100万÷104=9615ドルでしたが、今は100万÷128=7812ドルになるので、日本から輸出した自動車を買う人が増えるでしょう。つまり円安で普通の人は損しますが、輸出している大きな会社は得するのです。

Q8. 「悪い円安」って何ですか?

輸出物価を輸入物価で割った数字を交易条件といいます。これは輸出する商品1でいくらの輸入品を買えるかという数字で、日本人が世界の中でどれぐらい豊かを示すものですが、去年から下がり続けています。世界の通貨に対する円の価値を示す実質実効為替レートが下がっているため、資源や原材料の価格が上がっているのです。

交易条件
交易条件と実質実効為替レート(日銀)

この結果、輸入物価が上がり、日本人が貧しくなる悪い円安が起こります。輸出や海外生産をしているグローバル企業は円安でもうかりますが、日本人の8割はそういう大企業にはつとめていないので、円安は消費者から大企業への所得移転なのです。

Q9. これから円はまだ下がるんでしょうか?

それはわかりません。あまり急に円安になると、輸入インフレがひどくなって困りますが、日本はまだ貯蓄過剰なので、その差を埋める「均衡為替レート」は1ドル=150円ともいわれます。日本がこれからインフレになると通貨価値が下がるので、円は安くなります。

長期的には、ヨーロッパで脱炭素化で石炭火力発電を禁止したので、化石燃料の不足によるグリーンフレーションが進むでしょう。これによって資源価格が上がると、資源を自給できない日本のコストは上がり、交易条件はさらに悪くなります。

Q10. 円安を止める方法はあるんですか?

いちばん簡単な方法は、外為市場で政府がドルを売って円を買う為替介入ですが、これはいつまでも続けられません。外為市場の規模は日本政府のもっている資金よりはるかに大きいからです。

長い目でみると、円が安くなって日本国内で生産するコストが下がったら、アジアに出て行った工場も日本に帰ってくるでしょう。外資も日本に生産拠点をつくると思います。今はまだ日本企業の実力より円が高いので、円安が進んでいるのです。結局、為替レートは国際競争力で決まるので、企業の生産性を高めることが最大の円安対策だと思います。

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