今年はインフレの年になりそうです。図1のように去年11月の消費者物価上昇率(帰属家賃を除く)は前年比1.7%になりました。これに携帯電話の値下げ分(今年3月まで)1.5%を足すと、インフレ率はすでに3.2%になっています。
図1 消費者物価上昇率(持ち家の帰属家賃を除く)
ゆるやかなインフレは必ずしも悪くないのですが、物価が上がると金利が上がります。これはよい子のみなさんにはわからない世界なので、やさしく解説しましょう。
Q1. 金利って何ですか?
みなさんがよく知っている金利は、銀行の預金金利でしょう。これはもう20年近くゼロで、ほとんど意味がありません。もう一つは銀行が集めた預金を企業に貸し出す貸し出し金利で、この利ざや(貸し出し金利-預金金利)が銀行のもうけになります。
銀行は日銀からもお金を借りていますが、今はお金が余っているので、日銀当座預金として逆に日銀にあずけています。この金利は、今はマイナスになっています。
Q2. インフレになると金利が上がるんですか?
インフレ、つまり物価が上がるのは、需要が供給より多いときですから、需要をおさえる金融引き締めが必要になります。日本の場合は、インフレ目標2%を超えて物価が上がる場合、日銀はまず市場にお金を供給する量的緩和をやめ、次に金利を上げます。
Q3. 金利を上げるってどうするんですか?
昔は「公定歩合」という日銀の貸し出し金利があったのですが、今は日銀が債券や手形を銀行から買ってお金を供給し、短期の政策金利を誘導します。その誘導目標が日銀当座預金の金利で、今はマイナス0.1%です。
これがプラスになると、民間の資金が日銀に吸い上げられ、短期金利が上がります。金利は資金の需要と供給で決まるので、銀行の資金供給が減ると金利が上がるのです。特に国債などの長期金利は短期金利より高くなり、日銀がコントロールできません。
Q4. 金利が上がるとどうなるんですか?
企業のビジネスは、お金を借りておこなわれるので、金利が上がるとやりにくくなります。たとえばゼロ金利だったら、いま1億円借りたら10年後に1億円かえせばいいのですが、金利が1%になると、1億1000万円かえさないといけません。それだけもうけが少なくなるので資金需要が減り、物価上昇が止まるわけです。
Q5. 金利が上がると国債の価格はどうなるんですか?
新しく発行される国債(新発債)の価格は、たとえば長期金利が1%になると、額面が「金利1%」と変わるだけで発行価格は変わりませんが、新発債の金利が上がると今までに発行された国債(既発債)の値段が下がります。
たとえば金利1%で発行された額面100円の10年物国債Aを満期まで保有すると、毎年1円×10年=10円の金利がつくので、元利合計で110円返ってきます。あらたに額面100円で発行される10年債Bの発行金利が2%に上がると、金利は20円、元利合計は120円になります。
このとき今までに発行されたAの元利合計は110円ですから、その市場価格を下げないと売れません。その市場価格を100×Aとすると、その元利合計が新発債Bと等しくなるためには、
120×A=110
この計算は小学生でもできますね。A=110÷120=0.92、つまり金利が1%上がると、昔100円で買った国債は92円でないと売れないので、8円の損が出ます。市場で取引されるのは債券価格で、金利はそこから自動的に決まります。つまり金利上昇=債券価格の下落なのです。
Q6. 債券価格が下がると何が起こるんですか?
金融機関は国債をたくさんもっているので、その国債に評価損が出ます。その率は債券の残存期間(満期まで何年あるか)によってちがいますが、10年債は1%の金利上昇で1割ぐらい損が出ます。
いま市場には1000兆円の国債(残存期間は平均8年)があるので、長期金利が1%上がると、ざっくりいって50兆円ぐらい評価損が出ます。日銀はその半分をもっているので、25兆円ぐらい評価損が出るといわれています。
Q7. そんなに損が出ると銀行がつぶれるんじゃないですか?
評価損は帳簿上の損なので、債券を売らないと実現しません。日銀の自己資本は6兆円ぐらいなので、25兆円も評価損が出ると債務超過(純資産がマイナス)になりますが、日銀の資産は取得原価(買ったときの価格)で評価され、国債を途中で売らないので、この評価損が実現することはありません。
しかし資産が時価で評価される民間の銀行は大変です。日銀の今年10月の金融システムレポートによると「金融機関の円債投資にかかる金利リスクは、データが遡れる2002年以来最大」です。
図2 金利が1%上がった場合の民間金融機関の評価損(日銀)
図2のように金利が1%上がった場合、民間金融機関の保有する債券に約9兆円の評価損が出て、自己資本が約15%浸食されます。債務超過になることはないでしょうが、不安を抱いた預金者が預金をおろす取り付けが起こる可能性があります。
Q8. 取り付けって何ですか?
銀行は預金のほとんどを貸し出して信用創造しているので、預金者が一度に預金を引き出すと払い戻せません。それを払い戻すために貸し出し先からお金を回収すると信用収縮が起こり、企業の資金ぐりがつかなくなってつぶれます。
企業がつぶれると、そこに貸していた銀行の経営が悪化して「貸しはがし」が起こり、連鎖倒産が起こります。これが1998年に日本で起こった金融危機で、その後遺症は10年以上つづきました。
Q9. これから金利は上がるんですか?
日銀は量的緩和で大量のお金を市場に出したので、当分は国債の買い入れを減らしてお金を市場から引き上げるテーパリングで、量的緩和を縮小するでしょう。
しかし図1のように、インフレはもう始まっています。春からアメリカの政策金利が上がると、日銀もマイナス金利を正常化するでしょう。
そうなると地方銀行などの保有している国債に、大きな評価損が出る可能性があります。債務超過になることはないと思いますが、預金者が取り付けに走ると、何が起こるかわかりません。
Q10. 預金者はどうすればいいんでしょうか?
政策金利が上がると、銀行の企業に対する貸し出し金利は上がりますが、預金金利はすぐには上がりません。銀行の収益は悪化しているので、しばらくはゼロ金利が続くでしょう。インフレ時代には、
実質金利=預金金利-インフレ率
なので、ゼロ金利の預金の実質金利はマイナスです。銀行に預けていると目減りするので、すぐ必要な資金以外は、株式や投資信託など収益の高い資産に移し替えるのが賢いと思います。
日本人は金融資産の8割以上をゼロ金利の預金や年金・保険にあずけているので、インフレ時代には損します。これをどう運用すればいいか、アゴラ経済塾「インフレ時代に資産を守る」で考えます(まだ申し込み受け付け中)。
*帰属家賃とは、持ち家を貸したとき得られる計算上の家賃で、普通の家賃にほぼ比例して変動しますが、一般の財・サービスより低めに出る傾向があり、賃金統計などでは除外して計算します。