国債って何?

池田 信夫

政府は来年度の予算の大筋をきめました。毎年、年末にやっているのですが、去年は年末に選挙があったので1ヶ月おくれたわけです。総額で92兆6100億円で去年より少しへり、「国債の発行額が税金より少なくなった」と麻生財務相は胸をはっています。国債とは国の借金のことですが、これは数字のトリックです。

政府は今月、財政規模で13兆円の補正予算をくんだので、「15ヶ月予算」の合計額は105兆円をこえています。国債の発行額も来年度はへりますが、今年度にかけこみで発行するだけです。もともと今回の「補正」は来年度予算の先食いなので、選挙対策の目的はすでに達したのです。

・・・といっても小学生にはわかりにくいと思いますが、こんな感じです:借金でボロボロのお店がつぶれて、別の人に買われました。もとのお店の借金は新しい主人に引き継がれるのですが、お店の改装前にめいっぱい借金して、新しい店は「借金がへった」と自慢しているわけです。ようするに借金を「散らして」わかりにくくしているだけです。

もちろん、こんなごまかしで借金がへるわけがありません。「復興枠」も含めると、2013年(暦年)の国債発行額は50兆円以上で、国の借金は1050兆円をこえます。これはGDP(国内総生産)の2倍以上で、税収の23年分です。みなさんの家でいうと、お父さんの年収が450万円なのに1億円以上の借金をしているような感じです。これは次の図のように、世界でもずば抜けて悪い数字です。


でも麻生さんは「国の借金は会社の借金と違う。国はつぶれないから、いくら借金しても大丈夫」といっています。もちろんお金を貸してくれる人がいたら、永遠に借金をふやしつづけることができます。これは会社でもおなじです。問題は、貸してくれなくなったらどうするかということです。

ふつうの会社のばあいは、借金できなくなって前の借金が返せなくなったらつぶれます。これをデフォルト(債務不履行)といいますが、国の場合は日本銀行がお金を印刷すれば、いくらでも借金を返すことができます。安倍首相の大好きな「輪転機ぐるぐる」で、どんなに借金しても大丈夫というわけです。

でも、ちょっとおかしくないでしょうか? こういうことができるなら、国はお金を印刷すればいくらでも収入をふやせるので、税金をとらなくてもいいですよね。もちろん、そういう「フリーランチ」(ただのご飯)はないのです。

日銀がどんどんお金を印刷すると、物の量に対してお金の量が増えるので、インフレになります。たとえば10%のインフレになると、同じお金で買える物は10%へります。つまりインフレは政府の借金を民間につけかえて、税金をかけるのとおなじことなのです。

インフレが将来おこるとわかると、まず金利が上がります。今は預金の金利はゼロですが、10%のインフレになると金利も10%以上になります。これによって国債の金利も上がるので、今までに発行した国債が値下がりします。これはちょっとむずかしいのですが、新しい国債の金利が10%になると、1%で発行した国債は売れなくなるので、古い国債の値段が下がるのです。

日本の銀行は200兆円ぐらい国債をもっているので、その値段が10%下がっただけで20兆円も損します。たぶん地方銀行は、ほとんどつぶれるでしょう。銀行がつぶれると「ペイオフ」で1000万円以上の預金は返してもらえません。つまり「輪転機ぐるぐる」でインフレが起こると、まず最初に上がるのは金利で、その影響を受けるのは銀行なのです。

では今、これほど借金がふえているのに国債の金利が0.7%ぐらいと低いのはなぜでしょうか? それは日本銀行が100兆円以上も国債を買っているからです。安倍首相は「日銀はもっと買え」といって、インフレが2%になるまで買わせることにしましたが、これは永遠に日銀が国債を買いつづけるということです。

しかし金利が今のように低いのはデフレのおかげなので、本当にインフレになると、金利が上がります。そうすると日銀のもっている国債も値下がりして、大きな損が出ます。もし日銀がつぶれると、みなさんのもっているお札は日銀の借金の証文なので、お札の値打ちがなくなって日本経済はめちゃくちゃになります。

つまり莫大な借金をしていても国債がスムーズに売れるのはデフレのおかげなので、インフレが始まると歯車が逆に回り始めて金利が上がり、銀行がつぶれ、国の借金がふえ、最悪のばあいは財政が破たんしてしまいます。今ヨーロッパでおきているよりもっとひどいことになるかもしれません。

今週はちょっとむずかしかったかもしれませんが、要するに「働かないでお金を印刷しても生活は楽にならない」ということです。競馬や麻雀の好きなお父さんにも教えてあげてください。


政府は今月、財政規模で13兆円の補正予算をくんだので、「15ヶ月予算」の合計額は105兆円をこえています。国債の発行額も来年度はへりますが、今年度にかけこみで発行するだけです。もともと今回の「補正」は来年度予算の先食いなので、選挙対策の目的はすでに達したのです。

・・・といっても小学生にはわかりにくいと思いますが、こんな感じです:借金でボロボロのお店がつぶれて、別の人に買われました。もとのお店の借金は新しい主人に引き継がれるのですが、お店の改装前にめいっぱい借金して、新しい店は「借金がへった」と自慢しているわけです。ようするに借金を「散らして」わかりにくくしているだけです。

もちろん、こんなごまかしで借金がへるわけがありません。「復興枠」も含めると、2013年(暦年)の国債発行額は50兆円以上で、国の借金は1050兆円をこえます。これはGDP(国内総生産)の2倍以上で、税収の23年分です。みなさんの家でいうと、お父さんの年収が450万円なのに1億円以上の借金をしているような感じです。これは次の図のように、世界でもずば抜けて悪い数字です。


でも麻生さんは「国の借金は会社の借金と違う。国はつぶれないから、いくら借金しても大丈夫」といっています。もちろんお金を貸してくれる人がいたら、永遠に借金をふやしつづけることができます。これは会社でもおなじです。問題は、貸してくれなくなったらどうするかということです。

ふつうの会社のばあいは、借金できなくなって前の借金が返せなくなったらつぶれます。これをデフォルト(債務不履行)といいますが、国の場合は日本銀行がお金を印刷すれば、いくらでも借金を返すことができます。安倍首相の大好きな「輪転機ぐるぐる」で、どんなに借金しても大丈夫というわけです。

でも、ちょっとおかしくないでしょうか? こういうことができるなら、国はお金を印刷すればいくらでも収入をふやせるので、税金をとらなくてもいいですよね。もちろん、そういう「フリーランチ」(ただのご飯)はないのです。

日銀がどんどんお金を印刷すると、物の量に対してお金の量が増えるので、インフレになります。たとえば10%のインフレになると、同じお金で買える物は10%へります。つまりインフレは政府の借金を民間につけかえて、税金をかけるのとおなじことなのです。

インフレが将来おこるとわかると、まず金利が上がります。今は預金の金利はゼロですが、10%のインフレになると金利も10%以上になります。これによって国債の金利も上がるので、今までに発行した国債が値下がりします。これはちょっとむずかしいのですが、新しい国債の金利が10%になると、1%で発行した国債は売れなくなるので、古い国債の値段が下がるのです。

日本の銀行は200兆円ぐらい国債をもっているので、その値段が10%下がっただけで20兆円も損します。たぶん地方銀行は、ほとんどつぶれるでしょう。銀行がつぶれると「ペイオフ」で1000万円以上の預金は返してもらえません。つまり「輪転機ぐるぐる」でインフレが起こると、まず最初に上がるのは金利で、その影響を受けるのは銀行なのです。

では今、これほど借金がふえているのに国債の金利が0.7%ぐらいと低いのはなぜでしょうか? それは日本銀行が100兆円以上も国債を買っているからです。安倍首相は「日銀はもっと買え」といって、インフレが2%になるまで買わせることにしましたが、これは永遠に日銀が国債を買いつづけるということです。

しかし金利が今のように低いのはデフレのおかげなので、本当にインフレになると、金利が上がります。そうすると日銀のもっている国債も値下がりして、大きな損が出ます。もし日銀がつぶれると、みなさんのもっているお札は日銀の借金の証文なので、お札の値打ちがなくなって日本経済はめちゃくちゃになります。

つまり莫大な借金をしていても国債がスムーズに売れるのはデフレのおかげなので、インフレが始まると歯車が逆に回り始めて金利が上がり、銀行がつぶれ、国の借金がふえ、最悪のばあいは財政が破たんしてしまいます。今ヨーロッパでおきているよりもっとひどいことになるかもしれません。

今週はちょっとむずかしかったかもしれませんが、要するに「働かないでお金を印刷しても生活は楽にならない」ということです。競馬や麻雀の好きなお父さんにも教えてあげてください。