家電業界が向かうべきは「4Kテレビ」の開発ではなくホワイトカラーのリストラでは?

山口 巌

アゴラを中心に4Kテレビ開発の是非についての議論が活発である。しかしながら、正直それ程関心が持てない。何故なら、テレビというのは最早終わった商品と思うからである。


二つ百円の電球と日本経済で説明したトレンドが正しいのであれば、インチ@1万円の商品価格が@1千円まで値下がりしたテレビという商品が、将来日本に残るとは考え難いからである。

近い将来ベトナムやミャンマーで製造され、更に価格破壊が加速する事になる。

その第一弾は、飽く迄私の推測であるがシャープと提携する台湾・鴻海精密工業の日本市場進出である。

今の所、B-CASがバリケードだが、シャープの協力を得てクリアーするはずである。

鴻海は何分「自社ブランド」での販売実績が皆無である。従って、日本市場参入に際しては驚愕の安値を武器に乗り込んで来る事が予想される。

品質に五月蠅い日本の消費者がそれに飛びつくかどうかは疑問であるが、国内メーカーのテレビ価格の引き下げ要因にはなると思う。

要は、テレビに関しては既にレッドオーシャンで悪戦苦闘という状況だが、今後は国内メーカーは血の海の底に沈んで行くという事である。

石水智尚氏が4Kテレビを違う視点からDISってみる で過去の関連記事をすっきり纏めておられる。私の様な横着な人間には実にありがたい。先程拝読させて戴いた。

率直に言わせて戴ければ、肯定派の意見には余り説得力が感じられない。

先ず最初は、「4Kの基礎技術は「防犯」、「医療」分野での活用が期待される」という主張である。

これは確かに間違っていないだろう。高度な超解像処理基本技術の開発や、それを可能とする高性能CPUの製造は今後期待出来る事業領域である可能性が高い。

しかしながら、今議論しているのは高度な超解像処理開発の是非ではなく、4Kテレビが売れるかどうかである。ピントがずれていると言わざるを得ない。

釣り道具メーカーの戦略会議でカーボンファイバーを原料とした釣竿開発の是非を議論している最中に、カーボンファイバーは航空機での需要が急増する等といった話をしたら社長から怒鳴られるに決まっている(無論、大量生産でコスト削減が期待可能等はこの限りではない)。

次は、「4Kテレビは当初は高額だが、何れ安くなるから売れる」という主張である。

これは家電業界が過去辿って来た悪夢の様な、「優良ビジネス」⇒「薄利ビジネス」⇒「赤字ビジネス」⇒「公的資金で製造業支援 資産買い取り1兆円超」を、もう一度繰り返しましょうと提案している様なものである。

最後は、「4K技術は良い技術なので「4Kテレビ」が売れないはずがない」という、原始アニミズムに似た素朴な主張である。主張が素朴であるだけに説明に却って手間がかかる。

先ず、テレビ端末を実際に販売するとはどういう事なのか、原点回帰、分析の必要がある。

最初は高度な「超解像処理開発」といった基礎の技術開発がある。次いで、「超解像処理」を可能とするCPUの設計。最後はこのCPUを搭載した「4Kテレビ」の商品開発という事で、商品開発は技術的には終了する。

しかしながら、問題は「最先端超解像処理技術塔載」でこの新型テレビ(4Kテレビ)に如何なる「値付け」が可能になるかである。

「映像」が綺麗というのはプラス評価に決まっている。しかしながら、問題は顧客が実際にどれだけの「プレミアム」を認めてくれるかである。

「値付け」に限定すれば、市場の期待値が低いにも拘わらず、「費用+適正利潤」を強行したらちっとも売れないのに決まっている。

一方、市場の期待値に合せたら、「優良ビジネス」⇒「薄利ビジネス」⇒「赤字ビジネス」の負のスパイラルをショートカットして、最初から「赤字ビジネス」スタートで次は事業撤退になりかねない。

結果、3年後日経新聞一面で「公的資金で家電支援 資産買い取り3兆円超」といった不愉快な内容を日本国民は再度目にする事になる。

テレビ端末販売に向け、その後の工程としてはテレビ等のマスメディアを活用しての広告・宣伝。

リアルな売り場となる家電量販店に販促費を支払って、来店者の眼に留り易い場所に商品を陳列して貰う。

自社コストで営業マンを家電売り場に派遣しての接客、営業活動。

という事になる。

「4Kテレビ」は商品が素晴らしく、宣伝しなくても売れる。従来の商流である「家電量販」に依存せずともECで拡販可能となれば話は違って来る。しかしながら、そこまでの商品とは今の所とても思えない。

石水智尚氏のまとめで4K否定派の意見としては「画質の向上のみでは需要増は期待薄」といった所であるが、極めて常識的な結論であると思う。

家電メーカーに取っての分水嶺は、繰り返しとなるが昨年末発表された「公的資金で製造業支援 資産買い取り1兆円超」という民間企業救済を目的とした「税」の投入決定である。

結果、本来ならば株主の意見、要望のみを聞いておれば良かった所、納税者の発する耳の痛い意見にも応分の対応をせねばならなくなった。

納税者なんかどうでも良い。実権を握る官僚のいう事のみを聞いておれば良い。求めに応じて「天下り」を受け入れておれば良い。そうすれば、これからも好きなだけ支援して貰える。等と勘違いされては困る。

仮にそうであれば、家電産業は日本に取って、「邪魔者」、「厄介者」に過ぎない。

家電産業は、過去それなりに不採算部門を廃業し、薄利ビジネスについては工場の海外移転を加速して来たと記憶している。結果、工場労働者は正規、非正規を問わず応分にリストラされたはずである。

一方、少し過激な表現ではあるが、工場に寄生している本社ホワイトカラーのリストラは昨年末より「追い出し部屋」の如きが少し話題になっている程度で殆ど放置状態ではないのか?

だとすれば、今回決定した1兆円の税の投入の可也の部分が何をしているのかさっぱり見えない本社ホワイトカラー人件費に充当されると推測される。納税者としては当然「NO」である。

一納税者として言わせて貰えば、「海のものとも山のものとも分からぬ4Kテレビに浪費する金があるなら、本社で遊んでいるホワイトカラーのリストラに使い、最大限固定費削減に努力すべき」との要望になる。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役