体罰と丸坊主で謝罪、解雇規制について

生島 勘富

桜宮高校の自殺事件に続き、女子柔道の体罰事件、アイドルの丸坊主謝罪と、立て続けに事件が起きたので、もう少し考えてみたいと思います。


■女子柔道の問題は悪い体罰の典型

個別の事案については、私が知り得る情報では、本当のところはよく分からない。
得られている情報では、桜宮高校のバスケ部の体罰は、基本的にコントロールされた体罰でフォローのやり方に問題があった。

間違った体罰は、暴力であり、虐待です。
一部の映像、報道からですが、桜宮高校のバレー部で行われていたのは監督の気分による暴力。女子柔道で起きた問題も、ミスに苛立った監督による暴力・暴言のように見えました。

技術的間違いやミスは、技術的に指導すべきで、精神的に気が抜けている(力が抜けている)ときは、技術の問題ではないので言葉で指導することは難しい。
そういうときに使うのが体罰です。
何度も言ってる通り、「後ろめたさを増幅させる」のが体罰であり、恐怖で支配しようとするなら暴力や虐待です。

柔道の場合は、選手の心が離れていたようで、「後ろめたい」と思えなくなっている(思ってない)ところに、殴られようが、蹴られようが、何の効果もない。むしろマイナスだったでしょう。

■為末さんと大林さんの見解

先日、元陸上選手の為末さんと元バレーボール選手の大林さんが揃ってコメンテーターとして出られていた番組を観たのですが、いずれも、体罰を受けた経験があるとのこと。

為末さんは、「一切の体罰をなくすべき」
大林さんは、「全部をなくすことは無理でしょう、困ったわね~」とのことでした。
大林さんが現役の頃は、恐らく「東洋の魔女」の影響がまだ残っていた頃で、恐怖による支配だった可能性も捨てきれません。しかし、理解して体罰を受けていたんじゃないかと思います。

その番組では、海外のことについてもいくつか話題が出て、イタリアでは一切ない。
アメリカでは、フィジカルコンタクトがある競技(アメフトやアイスホッケーなど)では結構体罰がある。
(女子バレーで、海外でも)多少の体罰はあるけれど、すぐに(代表やレギュラーから)外してしまったり、(プロでは)報酬を下げられたりすることの方が多いとのことでした。

■体罰の方が甘い

欧米風に考えればスポーツは楽しみであり、付いてこられないなら二軍なりに落としてしまえば良い。プロやオリンピック選手は、体罰よりドライに下に落とされることの方が、非常に厳しい処分と言えるでしょう。ところが、殴っても目の前の選手を落としたくないという大変ウェットな浪花節的愛情を持った人が、スポーツの場に体罰を持ち込むわけです。

例えば有名な話しですが、星野仙一監督が最も鉄拳制裁(つまり殴ったわけですが)をした相手は中村武志選手です。戦力外になりかけていた中村武志選手を拾い上げました。

戦力外になりかけていたような一流と言えない選手を引き上げるのには、体罰は即効性があります。事実、中村武志選手はあっという間に正捕手へ駆け上がりました。逆に言えば、中村武志選手はたぐいまれな強い肩、優れた潜在能力はあったけれども、星野監督が来るまでは、自主的な練習ではその才能を開花させることはできなかったわけです。

「自主的な練習ができない」というのも才能が足りないことの1つで、「自主的な練習ができない人」を切り捨て、残った特に優秀な選手だけを集めることができれば優秀な成績を残すことができるでしょう。
しかし、そこからこぼれ落ちた人達を、「体罰を使ってでも引き上げる指導があっても良い」と私は考えています。

「高校生にそんなことは必要ない」というような意見もありますが、スポーツ選手の寿命は短く、東大生も、京大生も毎年3000人生まれますが、プロ選手は年数百人もいない極めて狭き門です。

プロやオリンピック選手レベルになれるかどうか、というボーダーラインから下にいる桜宮高校のような強豪校では、「時間が掛かっても自主的にできるように成長を待とう」という悠長なことを言っていては、狭き門が閉まるタイミングに間に合わないという切実な事情が、生徒側にあります。望む生徒が存在し、浪花節という文化を継承する人がいる以上、私は体罰をなくすことはできないと考えています。

■アイドルも浪花節

体罰問題が大きくなっている中、アイドルの交際が週刊誌にばれて、丸坊主になって謝罪するという、大変大きな話題も出ました。

そもそも、「恋愛禁止というルールがおかしい」と考えたのですが、実際のところは、恋愛禁止ではなく「スキャンダルとして発覚したこと」について責任を取る必要があった。とも読めますね。
浮気をするならバレないようにしないと行けない。
疑似恋愛を売り物にしている以上、当然のマナーだと思います。

問題の謝罪の仕方は実に浪花節的。

それには賛否両論がありますが、彼女が取り得た、黙って処分を受ける、単に謝罪する、「恋愛禁止というルールがおかしい」と開き直る。などの行動と比べ、丸刈りにすることで、一番多くのファンを踏みとどまらせ、新たなファンすら獲得したと、私は思います。

■欧米が正しいのか?

日本では、男性は切腹、女性は出家し髪を剃って尼になるという責任の取り方も文化としてあったわけです。
欧米の基準で考えれば、体罰も、丸坊主も、醜悪に見えるかも知れませんが、私にはそうは思えません。

逆に、私は欧米のように、解雇規制を緩和(撤廃)してあっさりと馘にできるようにと考えていますが、多くの日本人は解雇規制の緩和に反対し、「家族的会社に守られたい」と本心では思っているのではないでしょうか?

アイドルをみても、解雇規制をみても、浪花節は日本に文化としてしっかり根付いているのですが、自分が関わらないときに欧米を持ち出し、自分に対しては「浪花節で対応して欲しい」と思っているのでは?

「体罰を肯定した方が良い」というのは、「体罰をしなくてはならない」というわけでもなく、「解雇規制を撤廃すべき」というのは、「解雇しなければならない」というわけでもありません。体罰を肯定しても、体罰をやる学校、やらない学校は出るでしょうし、解雇規制を撤廃しても、解雇を頻繁に行う会社、従来通り日本的経営をする会社がでるでしょう。

体罰が嫌な人も参加でき、中村武志選手のような人も生き残れる社会になって欲しい。体罰(スポーツ)は欧米式、解雇規制は日本式でなく、どちらも選べる形にすべきではないでしょうか。

浪花節の日本が悪いわけでもなく、ドライな欧米が正しいわけでもないのです。

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生島 勘富
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