追い出し部屋は永遠に不滅です --- 城 繁幸

アゴラ

円安にともない、輸出企業の業績が回復している。その影響だろうか、「追い出し部屋もそのうちなくなりますよね?」というような質問をたまに受けることがあるが、それは早計だろう。個人的には、追い出し部屋は雇用調整のツールとして日本企業一般に定着していくと考えている。

理由は簡単で、日本企業の労務戦略において、この20年間を通じて最大の懸案事項は「現在40代後半にさしかかったバブル世代」であり、状況は改善するどころかますます悪化しているからだ。


多くの企業において、90年前後の新卒採用数は前後の2~3倍ほど。電機各社など軒並み千人以上の学生を採用していたほどだ。それが(まあそんなに出世はしてないとはいえ)それなりの基本給に到達し、根雪のように組織の首あたりに凝り固まっているわけだ。これが頭の部分にのぼる前に、何とか手を打たねば、というのが、多くの経営者や人事の本音である。

そして65歳雇用義務化も、企業側の焦りを加速している。「今の60歳をもう5年雇えと言われても誤差ですむが、バブル入社組を65歳まで雇うのはシャレにならない」と言っている人事は少なくない。

根本的な対策は明らかで、年齢や勤続年数によらない流動的な人事制度を作ればいい。そうすればどの世代が多いとか少ないとか、何歳まで雇わなければならないといった点は問題化しない。勤続年数に応じて処遇を決めるのではなく、果たせる職責によって処遇を決めれば済むからだ。

とはいえ中々そこまで自主的に改革するパワーのある会社は少ないので、当面、既存の枠内で多すぎる世代の処理を進めることになるだろう。それが追い出し部屋というわけだ。

ちなみに追い出し部屋の中の様子はこんな感じである。

40代後半で、在籍する事業部があまりパッとしない人の手元に、ある日、聞いたことのない部署への異動の辞令がやってくる。
「4月1日付 人材開発支援センターへの異動を命じる」
同じくらいの年代のおじさんばかりが集められたその部署では、きっと最初はとっつきやすいミッションが与えられるはずだ。
「グループ内で適所適材を図るため、これから皆さんの再訓練と再配置を検討します」
でもそんな幸運な人は稀だ。ほとんどの人は第二フェーズ、つまり就職支援会社のサポートを受けつつ、退職に向けた転職活動に追い込まれるだろう。

のんべんだらりとやらせるわけにもいかないから、定期的に再就職活動状況をレポートにまとめ、上司(恐らくは圧迫スキルの高い人事系管理職)に報告せねばならない。

「なんでおまえは毎回毎回不合格になるのか分かっているのか」
「二十年以上働いてきて、男として恥ずかしくないのか」

ねちねちねちねちイビられ続け、転職先が決まっていなくても
「多少の割増退職金が貰えるうちに自己都合で退職しようか」
となってしまう。

もちろん、再就職は容易ではないだろう。だって、45歳の求職者は、あと20年は雇い続けなければならないから。65歳雇用義務化は、船から降ろされた人には高波となって襲いかかってくることになる。

それでも、筆者は仕方ないことだと考えている。当たり前の話だが、企業にとって雇用調整は不可欠だ。にもかかわらず、そのために必要なルール化を議論もせず、自らの人生を一点買いでバクチに張ったわけだから、ツケは自分で払うしかない。

彼らより下の世代が教訓とするべき点はただ一つ。「リスクを取らない」という生き方は、たとえ大きな会社に勤めていてももうありえないということだ。何気なく働くと言うこと自体が一つの巨大なリスクであり、追い出し部屋はその顕在化した姿である。

ある程度の計画性をもって、企業がコスト的に割高だと見なし始める40歳までの間に、自らのキャリア設計を行うべきだろう。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年2月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。