G20における「アソウミクスと3本の矢」 --- 松田 宗幸

アゴラ

「アベノミクス」により前例のない回復をみせる日本経済。2009年8月30日まで総理であった麻生元総理を安倍総理が財務相に抜擢。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略3基本方針を、政権は「3本の矢」と表現する。「3本の矢」の中心人物である安部総理、麻生財務金融相、甘利経済再生相の共通イニシャルAはまさにARROWのAでもあり、そのフォルムは的確に的を射抜く矢尻(arrowhead)を指針しているようでもある。


かつての自民党はサプライサイドからパイの拡大を目標に掲げ、そのプロダクトアウトの達成が結果として家計にも浸透するというマクロ的手法を採った。右肩上がりの時代は政策的に多少の誤りや無駄があっても、賃金上昇という家計メリットがあった。しかし経済は水物であり土地バブル、輸出バブルの崩壊、グローバル化の波は労働力をコストベースで日本と海外の競合、それに少子高齢化問題が加わり、自民党のプロダクトアウト方式を信頼、そして支持しなくなる。

2009年当時の民主党は、自民党との違いを強調する目的もあり、ディマンドサイドからのミクロ政策の積上手法を採った。家計不安に対処するため、子育て手当、農家の所得補償など直接家計への支援政策を掲げ、従来の自民の保守層を大きく取込み、労組を支持母体に大勝。自民党のアプローチ方式が政官癒着、省益優先などの問題や無駄を生んだとし、その是正のために国家戦略局も発足するも頓挫、課題は個別政策の優先度や財源問題と経済成長などのマクロ経済問題との接続が不明確な点だったところにある。

2008年、リーマンショックでは世界的金融危機が重なり公的債務の巨大化、将来不安に世界マインドは傾倒。この変化に対応する政策見直しを財政出動による3段ロケット方式で当時の麻生政権は政局を睨みつつ是正にかかる。G20では世界先進各国に公的財政出動で歩調をあわせるようにリーダーシップを取り提案。新興国へ経済成長担保としての$1000億融資を準備。麻生案は採択され、IMFに「今世紀最大の貢献」と賞賛され、衆議院選挙敗北の裏で、皮肉にも株価は安定の兆しを見せ実質的成果を上げてきていた。

「3本の矢」は政権交代前の麻生政権の経済施策が、時空を超えて踏襲されている。麻生元総理をいまだかつて、世界で前例のないデフレ脱却挑戦への総監督に仕立てたことで「アベノミクス」は別名「アソウミクス」とも呼ばれている。モスクワで開催されるG20に向け、同じ福岡出身の日銀白川総裁と出国した麻生元総理の、その「出で立ち」も話題になった。

「60歳を過ぎて地味な服を着れば、地味な仕事しかできん。ヴェルサーチをバリッと着たら、端から見て何かやってくれそうや」とし、「プロフェッショナルのプロはプロセスのプロ」、世間から歌舞いた格好と言われても、「プロは金」といった短絡的ではない結果の裏側にあるプロセスとそのスタイルをあくまで重視する野村元監督やイチロー選手の、侍的な姿勢と理念に筆者は共感するところがある。

G20では「アベノミクス」への関心の高さから各国の会談要請が麻生元総理に殺到、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長ら計約10人と意見を交わした。G20の前にドイツのショイブレ氏は「日本の新政権の政策に大きな懸念をもっている」と円安誘導を批判するも、会談では為替相場についての話は出ず、アベノミクスが成功するように期待を寄せ今後も意見交換していくことで一致。麻生元総理は韓国、トルコ、カナダの財務相のほか、米国のブレイナード財務次官、世界銀行キム総裁、IMFのラガルド専務理事ら約10人と意見を交わした。

麻生元総理のスタイルか、結果の裏側にあるプロセスが功を奏したかは定かではないが、G20の共同声明草案では、財政・金融政策は国内経済目的の達成のみに用いるべきとした日米欧7カ国(G7)声明の文言は盛り込まれていない。「誰もがこの日本の方針を支持している」と述べ、声明をめぐる協議で日本への名指しもなく日本を追い詰めようとする動きはなかった。G20出発前、自らのアゴを突き出しながら「ちょっとアゴでするだけで株価は2割強上がり、為替もスルスルと円安になった」円安誘導の指摘を打消し「おれたちは、まだ何もしていない」マフィア映画さながらの名言も残している。

ボルサリーノを深く被り、マキシ丈コートを纏った、麻生元総理貫禄のスタイリングは、流石としかいいようがないまさに現在のリアルゴッドファーザー。モントリオールオリンピッククレー射撃クレー・スキート競技日本代表でもある麻生元総理は動体視力に関しコイントスで表か裏かを見分ける事が出来る。「3本の矢」の切り札は現在のリアル那須与一、麻生元総理であるともいえる。

世界に向けてデフレ脱却発信期待と、政治のプロフェッシナルに相応しい伝統と英知、ミッションスナイパーの凄みと精気が今もってして漂っている。「一発かます」という表現で用いられる「かます」を麻生元総理の地元筑豊では「ぬかす」と方言するが、まさに世界を出し抜かんとする意気込みを、プロセスとそのスタイルから筑豊出身の筆者は察している。「出し抜く」は「武士が刀を出して抜く」動作が語源となっている。

松田 宗幸
(株)Mホールディングス
代表取締役 CEO
Marketing Creative Director・Mixed Martial Arts Artist.
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