「自衛隊員妻に中国人600人」を読んで「国家と情報」を考える

本山 勝寛

今週の週刊ポストを読んでいて目を引く記事があった。「自衛隊員配偶者 外国籍800人で中国600人、上位に比・韓国」というもので、記事の一部を引用すると以下の通り。

日本の自衛隊では、毎年行う身上調査で、配偶者の国籍を問うているが、最新の調査では、陸上自衛隊14万人中約500人、海上自衛隊4万2000人中約200人、航空自衛隊4万3000人中約100人の計800人が外国人の配偶者を持つという結果がでているという。また、その7割にあたる約600人が中国人で、ほかフィリピンや韓国出身者などが上位を占めるという。


日中の防衛問題に詳しく、『あなたのすぐ隣にいる中国のスパイ』(飛鳥新社)をこの4月に上梓した鳴霞氏は、「海自で外国人妻を持つ隊員のうち、10人が保秘性の高い職務についていたという情報もある」と語る。

近年、外国人妻と結婚する自衛隊員は増え続けているが、この背景には、自衛隊員の厳しい職業事情がある。「自衛隊の基地はたいてい田舎か郊外にあり、女性自衛官が増えたといっても、まだまだ男ばかり。日常のなかに男女の出会いなんてほとんどない。それで、斡旋業者を介して外国人女性と結婚したり、盛り場の飲み屋で知り合った外国人女性と結婚するケースが増えているのです」(陸上自衛隊関係者)

この記事自体は、2007年に海自護衛艦の秘密情報持ち出し事件があった際、2等海曹の妻が中国人だったことで注目された問題を、再度提起した真新しいものではないが、やはり国防に関わる問題なので気になる。とはいえ、短絡的に自衛官や防衛省職員の外国人または中国人との結婚を禁止したり、外国人を配偶者に持つ自衛官の人事を平等に扱うべきではないといった意見には慎重であるべきだ。

そもそも、日本人の国際結婚は80年代以降増えており、年間3万件、4%以上が国際結婚だ。そのうち外国人妻の場合、中国人妻がトップで1万人、フィリピンが5千人、韓国が4千人と続く(参照データ)。この一般的傾向から比べると、自衛官の国際結婚が0.4%前後なのは、むしろかなり低い数字であり、相手の国籍も一般傾向と大きな差はない。とはいえ、外国人配偶者の中国人の割合が、一般が5割弱なのに対して自衛官7割とやや多いのは気になる。さらには、結婚までしているなら比較的信頼度が高まるが、結婚外の男女関係、つまりはハニートラップのことまで考えると十分に注意すべき問題だ。私は、日本財団が主導してきた日中国防佐官級交流事業に関わったことがあるが、政治家や官僚のみならず、企業やマスコミにもこういった攻勢があることは聞いた。

結局は、結婚という個人の最も基本的な人権を制限するよりも、国家機密に関する取り扱いをどうするのかをしっかりと議論し、必要に応じて法制度を整備すべきなのではないか。日本は国家機密漏洩に対する罰則規定がゆるく、国家公務員法などの守秘義務規定の罰則が「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」といった軽いものしかないため、「スパイ天国」と揶揄されてきた。こういった指摘を受け、2000年にようやく、自衛隊法の防衛秘密を取り扱う者が漏らした場合は「5年以下の懲役」と一部の罰則が重くなったが、これとて米国の「死刑、無期刑または有期刑(上限なし)」に比べると軽く、抑止力が働くか疑問だ。

自衛官や国家公務員が誰と交流し、結婚しようが自由であるべきだが、罰則規定が厳格であることによる緊張感が、機密情報漏洩の抑止力となるのではないか。日本は決して絶対安全、絶対平和な地域に存在しているわけではない。一筋縄ではいかな強い軍事力を持った国家に囲まれている。

やれスパイ防止法だという言うと、不当な人権侵害に利用されるといった強い反対の声も聞こえてきそうだ。しかし、そうやって思考停止するのではなく、人権問題への配慮と国防機密保持は同時並行で考えるべきだと思う。たとえば、政府から独立した国内人権委員会の設置とセットで進めることも考えられる。人権委員会については別の機会に触れたいと思うが、各政策のメリット、デメリットを冷静に分析し、それらを補足するかたちで全体の整合性やバランスをとることが重要ではないか。単なる無策のまま浸透されるだけされて、後から「こんなはずじゃなかったのに…」と嘆いても遅い。

学びのエバンジェリスト
本山勝寛