「ゲーム」のない日本のコンテンツ産業政策は何か勘違いしてないか?

新 清士

常々、コンテンツ産業の最大の輸出産業「ゲーム」のステイタスの低さに、疑問を感じている。特に産業政策としてコンテンツ産業を語る上で、「ゲーム」は順序が最後だ。「アニメ」「マンガ」「映画」「音楽」とかの序列で、最後に「ゲーム」が来る。「クールジャパン」といった戦略が語られるときにも、ひどいときには欠落していることさえある。

最も外貨を稼いでいる産業であるにも関わらず、奇妙なほどに社会的な評価が低い。

■アニメは低下していても、ゲームの世界的なステイタスは相変わらず高い


ゲームは、世界で日本のイメージを形成している重要なコンテンツであると確信できる。アメリカなりの海外のおもちゃ屋に行けば、「マリオ」や「ピカチュウ」がいないことはない。

香港やシンガポールに行けば違法コピーもあるかもしれないが、Tシャツにプリントされているものも、時計になっているフィギュアを常に見かける。コピーが起きるのはステイタスの高さを示している。

フィギュアショップに行けば、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジー」のキャラクターやモンスターを見かけるし、先日カナダの書店によったときには、セガの「ソニック」のアメコミが、本屋で最も目立つところに置かれていた。日本では「ソニック」のマンガは描かれておらず、北米オリジナルだ。

■ゲーム会社が自力で開拓してきた海外市場

ただ、事実として、国に自社のゲームのプロモーションを期待しているようなゲーム会社は存在していないとは思う。展開のスピード感が競われるゲーム産業では、のんきに文化発信なんてやっている時間はない。

世界の家庭用ゲーム市場は、80年代に苦労して任天堂が開拓したものであるし、90年代はソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション」も自社で努力して成功させたものだ。現在のソニーの平井一夫社長は、SCEのアメリカの社長兼CEOとして、「プレイステーション2(PS2)」時代のマーケティングを大きく成功に導いた立役者だ。PS2はゲームのみならず、世界的なDVDの普及に大きな役割を担った。

現在は、ソーシャルゲーム会社が、海外進出の努力を懸命に続けている。新興勢力のディー・エヌ・エーなどの様々な企業が、アメリカの会社を買収したり、アップルのApp Storeや、グーグルのGoogle Playで、苦労しながら上位の売り上げランキングに食い込んでいる。

■ゲーム産業への勘違い、ゲームは先端技術産業

それでは、日本のゲーム産業の育成に行政の支援がいらないかというと、欠けているものはいくらでもある。必要なのは、海外への発信能力ではない。国内を強化することだ。ゲームの開発技術は、コンピュータの先端技術を扱っていることが多い。そのため、その従事者は、P.F.ドラッカーのいう「知識労働者」と呼べるほどの専門的な知識と技術を必要とする。

勘違いが蔓延しているように思えるが、「ゲーム」は最先端のコンピュータ技術産業だ。

北米地域ではゲームやCG分野を「デジタルメディア産業」と呼ぶ。ゲームは、リアルタイムのコンピュータグラフィックスをインタラクティブに表現する最先端の映像産業として理解されることが多い。ハリウッドからの人材も多く流れてきている。また、全世界的にみると、シンガポールや、発展途上国のチリなどなどなど、この分野の人材をどのように育て、企業を育成するのかというのは、各国間で激しい競争状態にある。

■15年でゼロから万単位の高度教育人材を生み出したモントリオール

例えば、大きく成功している例は、カナダのケベック州モントリオール地域だ。繊維などの製造業の衰退により、80~90年代に激しい不況下だったところを、ITの先端ハブ地域にする戦略をとると決めた。1997年に、大手ゲーム会社の一つ、仏UBIの開発スタジオを誘致してから、多くの企業が進出した世界的にも最も大きなクラスター地域に成長している。

何より強力なのが、人件費の37.5%を行政が負担するという仕組みだ。また、研究開発費に対しても、使った金額の一定割合を負担するといった仕組みもある。そのため、世界中のゲーム会社が集まり、日本の企業でもスクウェア・エニックスが進出している。UBIモントリオールは現在では1600人のスタッフを抱える世界最大のゲームスタジオに成長している。

また、ゲーム会社だけではなく3Dグラフィックスツールで、世界的なディファクトスタンダード「3D Studio Max」の開発スタジオが存在するなど、波及効果も大きい。「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、モントリオールに拠点を持つが、演じる内容は、人間が演じる前に、モントリオール地域の3Dツールやシミュレーションツールを使って設計する。多数の新しいベンチャー企業から、先端の技術が出ることも少なくない。15年前には、ゼロだった雇用を、高い知識水準を持った万単位の人材を抱えるところまで成長させた。

■日本のコンテンツ産業政策は何か勘違いしてないか?

地元の大学との連携も深く、ゲーム会社のニーズと連動するような研究や教育が積極的に行われている。要するに、デジタルメディア産業を形成するために、産官学がちゃんと強い関係を作ることにも成功している。

日本でクラスター地域化を進めようとがんばっているのは、福岡市があるが、課題の方が多い。まず、すべて中央の霞ヶ関に権限があり、また縦割りであるため、横断的に制度を触ることができない。モントリオールのように、税制や、研究や教育カリキュラムの設計といった産業育成のキモになる点を自由に設計できない。

ついでに、海外のゲーム開発者に、100回は聞かれたことがある。「日本のゲーム会社の数は何社あるのか? また、従事している開発者の数は何人か?」 いろいろ、探したが私の知る限りではこうした統計は存在しない。そもそも、海外に売り込もうなんていう前に、まずは、基本的な統計をそろえることに、行政の仕事があるように思う。

もちろん、こうした統計をカナダは持っている。

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT)、作家 @kiyoshi_shin
メルマガ週刊アゴラにて「ゲーム産業の興亡」を連載中