またもや見当違いの「郵政全社外取締役退任」の日経報道!

北村 隆司

5月18日の日経新聞の一面に「全社外取締役が退任:日本郵政、西岡会長ら13人」と言う大きな見出し記事が出ました。

内容は「政府による事実上の解任で、民主・国民新党政権色を一掃する」とあり、解説欄には「政府の人事介入を招いたのは、元大蔵次官の斉藤前社長が自民党に相談もなく同じ大蔵省出身の坂氏に社長の職を譲った事が『省益誘導』と反発を呼んだ結果で、自民党政権としては、民主・国民新党時代に選任された現経営陣を刷新する思惑も有った様だ。だが、株式上場を目指す企業の人事や経営方針が政権の意向で方向転換を余儀なくされる体制を疑問視する声もある」と言うものでした。


なるほど、斉藤、坂両氏は小沢一郎氏の強い影響を受けた可能性はあるとしても、今回の記事は社外取締役の件で両氏とは関係のない記事です。然も、辞任する社外取締役には奥田元経団連会長など自民党色の強い人が大半で、全くのお門違いの記事です。

この記事には、記事本体も解説欄も無署名で、経済紙でありながら、会社経営の基本を間違えた政局的な見方に終始した粗悪記事です。

ましてや「株式上場を目指す企業の人事や経営方針が政権の意向で方向転換を余儀なくされる体制を疑問視する声もある」と言うに至っては、この記事を書いたご本人の声ならいざ知らず、常識を逸しています。

本来なら「株式上場を目指す企業の経営トップが100%株主の意向を無視しトップの交代を決めたにも拘らす、そのトップの牽制も出来なかった社外取締役のfiduciary duty(忠実義務)違反を其の侭放置したら、経営の透明性を疑われ、上場に困難を来たす事を心配した政府の処置と思われる」と書くべきでした。

社外取締役の全員辞任は、私が書いた『日経の見出し「郵政経営、政治が翻弄」は間違いだ!』でも申し上げました様に、誠に妥当な処置です。

今回を機に、取締役が減員されることも当然です。

社外取締役とは異なり、経営トップとして当然守るべきDue diligence(当然の注意義務)を守らなかった斉藤、坂両氏も辞任を求めるより、懲戒に近い形の解雇に価します。

何でも政治にからめるなら、今年の初めに、フランスのモントブール生産力再建相が、ルノーのカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)が日産自動車の車をフランス国内の 稼働率の低い工場で生産することに同意し、フランスの失業救済に協力する事になったと発表した時こそ、政治の不当介入を非難すべきでした。

郵政の100%株主の政府が、経営者の違反行為を問うのが政治介入で、ルノーの15.01%株主のフランス政府が、ルノーが43.40%しか株を保有していない日産の労働者の職を奪ってでも、生産コストの高いフランスに生産を移させる事こそ、ゴーン氏の自己保全的な企業の私物化で、これに抗議しない日本の新聞と、労働市場の規制ばかり騒ぎ、ルノーやフランス政府の横暴に目をつむるリベラル派や労働組合の質を疑います。

日経がそれだけ「経営への政治介入」に神経質ならば、いまからでも遅くないので、ゴーン氏とフランス政府に、生産をフランスに移行する日産のメリットの説明を求めて欲しいと思います。

2013年5月18日
北村 隆司