橋下氏発言で考える「人権と外交」

2013年05月18日 17:24

橋下徹大阪市長の性風俗業と慰安婦に関する発言が国際問題となっているが、その是非は他でさんざん論評されているので置いておくとして、これを機会に「人権と外交」について少し考えてみたい。

というのも、橋下氏の一連の発言は、内容如何にかかわらず、人権外交としては最悪であり、政治家をはじめとする社会的影響力のある方々は、人権外交が国際的にどのように行われているかをまずは知っておくべきだと思うからだ。


各国の人権問題が国際的に議論される公的な場というのは様々あるが、なかでも近年、専門家の間で最も重要視されているものの一つが、国連人権理事会における「普遍的定期審査(UPR)」だ。UPRとは,国連人権理事会の創設に伴い、国連加盟国(193ヶ国)全ての国の人権状況を普遍的に審査する枠組みとして盛り込まれた制度で2008年から実施されている。審査は国連加盟国全てが議論に参加し,NGOも作業部会を傍聴することが可能だ。4年半で全ての国が審査されるので、4~5年に一度その国の審査が行われる。日本は2008年に第1回、2012年に第2回の審査が行われた。

日本の人権状況を各国が審査するというこの「人権外交の舞台」で、慰安婦問題がどのように扱われているか見てみよう。

2012年のUPR審査では、174の勧告のなかで、慰安婦問題に関して勧告を行ったのは、韓国、北朝鮮、中国、それにオランダ、コスタリカである。最初の3カ国がこの問題を取り上げるのはほとんど避けようがないが、その他の国にいかに対応するかが人権外交のポイントでもある。

日本政府はこれに対して以下のように回答している。

日本政府は,「慰安婦」問題は多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるとして,いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し,心からお詫びと反省の気持ちを表明してきた。

第2次世界大戦に関する賠償並びに財産及び請求権の問題については,サンフランシスコ平和条約,二国間の平和条約等の当事国との間においては,法的に解決されている。

1995年,日本政府は,日本国民とともに,高齢になられた元慰安婦の方々に対する支援を行うことを目的としてアジア女性基金(AWF)を設立した。日本政府は元慰安婦の方に対する「償い金」だけでなく医療・福祉事業を含む基金の活動に対して最大限の支援を行った。日本政府としては,同基金の事業に表れた日本国民の本問題に対する真摯な気持ちに理解が得られるよう今後とも最大限努力していく考えであり,同基金の事業のフォローアップを行っていく。

174の勧告のうち5つという数字が、多いとみるか少ないとみるかは人に依るかと思うが、日本はこの問題に対しては防御の立場になるしかなく、冷静に対応しながら問題を沈静化させ、韓国・北朝鮮・中国以外の国に飛び火させない戦略を取るべきだ。この観点から、アメリカや他の国々を敵に回すような発言を繰り返す橋下氏は人権外交としてはかなりまずい。

ちなみに、日本の人権状況に対して国際的に最も関心が高く、勧告が多かったのは死刑制度の廃止である。次いで、政府から独立した国内人権機関の設立に関する言及も多かった(これは民主党政権下で「人権委員会設置法案」が閣議決定、法案提出される途上にあったため、「歓迎」のコメントが多かった。自民党政権になり、この法案は保留されている。)また、日本の国際人権機関への貢献やODA支援に関する謝意なども複数あった。

慰安婦問題という本来は国際的にマイナーな問題に対しては冷静に対応しながら、国際的にメジャーな問題に対して説得力のある説明や対応をしていくというのが人権外交のあるべき姿と思われる。また、守りの姿勢だけでなく、良い点は積極的にアピールすることも重要だ。

日本政府は2010年、国連総会に「ハンセン病差別撤廃決議」を提出し,全会一致で採択された。過去の間違った政策に対する反省とそれに基づくハンセン病基本法の制定などの経験をいかして、国際的な運動にしようというものだ。日本政府が主導となって国連で人権決議を通すのは他には北朝鮮問題くらいで、全会一致採択となるとこのハンセン病決議くらいかもしれない。私は勤め先の日本財団で、外務省人権人道課と協力しこの問題に取り組み、決議の実効のために各国を回りながら継続的な働きかけに務めている。日本政府としても提案国として、UPRはじめ様々な人権外交の場でハンセン病問題に関する「攻めの発信」を続けている。

先に触れた人権委員会(国内人権機関とも呼ばれる)についても、ネット上や保守層の間では反対意見が強いが、懸念される部分への対策を制度に盛り込むことを前提としたうえで、人権外交のツールとして考えるという視点も加味する必要はあるだろう。国連は、1993年に「国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)」を採択し、それ基づく国内人権機関が110カ国以上で設置されている。日本にも設置の勧告が各国から寄せられているのはそういった背景がある。各国の人権機関の国際的なネットワークもあり、つい先日、ジュネーブでその年次総会が開催されたばかりだ。国内人権機関のない日本の正式参加は当然なく、日本財団が1NGOとして参加したくらいだった。ちなみに、韓国は2001年に設立し、活発な活動を行っている。

こういった場でネットワークを拡げ、各国の人権キーパーソンとつながりを持っておくことが、人権外交の場で効いてくることは言うまでもない。それが、慰安婦問題を取り上げる国を増やさない、あるいは、拉致被害者救済の国際世論を拡げるといった成果にもつながってくるわけだ。

外交は「本音」を一方的にしゃべり立てるだけが能ではない。もちろん、全ての人間の尊厳と権利を尊重するという本質を大前提としたうえで、人権外交については戦略的な視点も重要ではないだろうか。

橋下さん、その発信力は今や国際レベルですから、人権と外交についてもぜひ勉強して下さい。

学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/

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