日本企業は何で食っていくのか (日経プレミアムシリーズ)
著者:伊丹敬之
出版:日本経済新聞出版社
★★★★☆
「異次元緩和」の失敗と株価の暴落で、日本経済の停滞が金融緩和ぐらいで解決できるような簡単なものではないことは、政治家にもわかっただろう。本質的な問題は、本書もいうように、かつて日本の得意分野だった家電や半導体が新興国との競争で総崩れになっている状況で、これから日本企業は何で食っていくのかということだ。
著者は「エネルギー産業が鍵だ」という。日本はもともとエネルギーの自給率が低いため、省エネや原子力などの分野では、今でも世界一のレベルを保っている。これを中核にして「電力生産性」を高めることによって産業を再構築すべきだという。これは原子力開発が行き詰まり、これから原油の値上がりなどのエネルギー制約が日本の成長を制約する大きな原因になることを考えると、重要な視点だと思う。
インフラ産業は、日本の得意とする「すり合わせ」型の企業組織がまだ比較優位を生かせるので、こうした「複雑性産業」が今後の日本の中核だという。いいかえれば、モジュール化やイノベーションが勝負のIT産業には比較優位がないということだ。エネルギーについては蓄電技術がボトルネックになっているので、これを解決すれば再生可能エネルギーの実用性も上がる。こうした化学工業にも日本は比較優位があるという。
全体として技術系に話が片寄っているが、私は外食サービスや観光のような日本文化を生かせる分野にも可能性があると思う。しかし問題は、このように発想を転換して戦略を立てる経営者がいないことだ。その一つの原因は、著者がかつて「人本主義」と賞賛した企業ガバナンスにある。経営者が内部昇進の「従業員代表」で、株式の持ち合いで資本市場の競争をなくすカルテルを組んでいる状況では、大胆な戦略転換はできない。
まず政府が、KKRが買収することで合意していたルネサスを横取りして「国有化」するような「産業ナショナリズム」を捨てることが必要だ。そして企業買収・売却で「企業コントロールの市場」を創造し、「経営者の市場」で無能な経営者を追放する株主資本主義が、日本の再生の鍵だと思う。