国民のケンポー? ……アホかいな。 --- ヨハネス 山城

2013年06月03日 12:09

産経新聞が「国民の憲法」草案を作ってから早くも1ケ月以上、お気の毒なことに、ネット上には、ほとんど反響がない。そやけど、この手のゴミを放置しておくと、いつの間にかデカい顔をしはじめることもあるから、汚物処理しとくで。

今回、憲法という用語は現行憲法や、一般的な意味での「憲法」とややこしいから、産経はんのは「ケンポー」と表記する。このぐらいの扱いが妥当なシロモノやということは、すぐに分かる。


まず、「前文」と称する部分を見ると、「日本国は……天皇を国のもといとする立憲国家である」となっている。あのなぁ。あんたが今書いておるのはケンポーやろ。憲法が存在するなら、すでに立憲国家や。単に「天皇をもといとする国家である」で十分や。最初の最初から、こんなスッポぬけたような事を書いて、どないするねん。

これを「揚げ足とり」と言うなら、次の例を見てくれ。「天皇は、このケンポーの定める国事行為および公的行為を行う(第一章第四条)」。言うまでも無いが、国事行為とは憲法に規定のある天皇の活動のこと。他の意味はない。小学校の教科書にも書いてある。

ケンポーが国事行為と公的行為を区別している意図は不明(知りたくも無いが)やが、憲法に書き込んでしまうと、結局のところ全部、国事行為になってしまう。お前ら素人か。

論理の粗雑さが一番明確なのは、「憲法とは国家権力を縛るだけではない」という議論や。イデオロギー以前に立憲主義といものを理解してへん。この杜撰さは、もう少しマシな、自民党などの私案でも見られるので、この際、きちんと退治しておこう。

現行憲法でもこのケンポーでもええけど、一国民が具体的に憲法違反をすることが出来るか考えてみてくれ。出来るとすれば、ケンポーの方の「国旗の尊重規定」ぐらいやが、これとて、国旗とは何か、「尊重しない」とはどういうことか、侮辱したらどうなるか、などと具体的な個別法を設けない限り、法律としては機能せんやろ。

国民と直接関係するのは個別法で、ケンポーはそれらの方向性を限定するのが仕事。国旗以外の国民の義務も同様。個別法がケンポーに根拠が無い義務を国民に課することはできない。義務規定はホワイトリスト方式で立法権を縛っていることになる。

国旗を例にとれば、「日本国民は一日一回、日の丸を踏みつけなければならない」とか「大阪市民は大阪市旗を掲揚しなければならない」といった規定はケンポー違反になる。直接に縛っているのは、あくまで国家権力のほうや。

こんな面倒臭い議論をせんでも、ケンポーの規定の大部分は、政府(と天皇)を縛っていることは一目瞭然。今のと大して代わり映えせん。つまり憲法とはそういうもんや。

人間がシステムを作る場合、常に、一貫性と柔軟性という矛盾した要請がある。国家がこれを解決する手法のひとつが立憲主義や。権力には、「変更しにくい憲法」で大枠をはめてる代わりに、その中では迅速・柔軟に動いてもらう。必要があれば国民に対しても、個別法などで規制をする。立憲主義とはそれだけのこと。技術的な話や。国柄とはほとんど関係がない。

ケンポーのセンセ方は、ここがわかっておらんようや。妙に具体的な規定を持ち込んで、せっかく立憲主義の良さを殺している。たとえば、「皇位は……男系の子孫がこれを継承する(第一章第三条」や。

なぜ、女帝を認めながら男系にこだわるのか、さっぱりわからん。現状の皇室にこのケンポーを適用したら、当分の間、女帝が次々と即位することになる。男女の平均寿命差を考えたら、男性が皇位についている期間は、むしろ例外になりそうや。

「男系の男子がいない場合に限り女帝を認める」などと、気楽な事を言わんといてな。男系の女子というのは一代限りやから、男系の男子がいなくなった時点で皇室は「死に体」というのが、このケンポーの趣旨や。女帝の仕事は万世一系の後始末ということになる。

旧宮家の復帰はどうか。一般国民を経験した家族が、簡単にもとに戻れると楽天的に考えるのは、宮家制というものをナメた発想や。彼らは、皇室のバックアップを守ために、生まれた時から特別な人生を受け入れている。だてに税金使っているのとは違うで。

他にも大問題がある。イギリス風に厳密に継承順位を定めておくのか、その場その場で協議するのかということや。機械的なルールを決めた場合、継承者が熱心な共産主義者やったらどうする。犯罪者だったら。そこまで極端でなくても、病弱だったり、配偶者が外国人やったらどうするのか。男系でも、母親次第で金髪天皇というのもあり得る。

一方、宮家候補者を協議で選定をするならするで、皇位継承紛争の恐れがある。政治が動く。利権が動く。下手なことをしたら、皇室の権威が一気に失墜する。

ここまでやっても、側室制度なしでは男系を維持するのは無理、というのが現在の定説や。民法に非嫡出子という概念があることを考えれば、側室というのも全く無い話でもなかろうが、これこそ国柄にダイレクトに関わる話や。大事なことを皇室典範に丸投げしておいて「男系」だけを指定して将来の政府を縛るというのは、無責任極まりない話や。

改憲というのは当然ながら大変な作業やで。「男系」の一言だけでこの騒ぎや。独立性が強い皇室関係の条文でさえこうなる。法律一本を作るのに、大勢の官僚が徹夜することを考えれば、全面改憲には法務省を中心に大増員が必須。憲法訴訟の激増に備えて、弁護士など司法関係の人員も厚くするしかない。怖いほどカネが要る。

外交にも影響がある。意図と内容の説明責任は当然やろ。もし、このケンポーなら世界中との関係悪化は必至。「国防」予算も大増額。経済混乱で株価は暴落。アベノミクスも軽くチャラ。どう考えても無理やろ。自民党の改憲案かて結局は同じことや。ケンポーごっこは楽しいけれど、どんな内容にしろ、国柄にかかわるような大改憲が実現できるわけがないこと、は理解してもうらえんかのう。

ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト

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