金利の上限がゼロだって? --- ノア・スミス(Noah Smith)

2013年06月13日 11:21

先日、面白いことが起こった。「アベノミクス」の一環として、日銀は長期日本国債を買っている。このことは期待されたポジティブな効果をもたらすと思われる。つまり、物価が上がりインフレ期待感が上がり成長率が上がり、消費が上がり、輸出量が上がり、そして株価市場も最近は落ちているもののどんどん上がる

でも、面白いことというのは、日本の長期国債の利回りが先月のほとんどの間上がり続けていた、ということだ(日本国債の価格が下がったことを意味する)。


これは変ではないか? 経済の初級講座では、モノをもっと買えば価格は上がり、下がらないと言っているのに! リチャード・クーの長い大言壮語の中で、金利レート上昇はインフレ期待感の上昇が原因によるものであると彼はみている。クーによれば、QEはうまくいかず、日本の民間投資家はこれを理解し、実質成長のないインフレを予想し始め、日本国債を見限り、レート上昇の原因となっている、とのことである。

しかし、ニック・ロウは異なる予測をしている。ロウによると、レート上昇はより大きな成長期待(名目成長、つまりより高い実質成長とより高いインフレの両方)によるものである。日銀の金融緩和政策により経済が改善するにつれ、金利は自然に上昇する、とロウは言う。つまり、投資家は単純にそれが上昇することを予期し、今は国債を売る。ロウはクーに対して次のようなやや辛辣な言葉も投げかけている。

リチャード・クーは本当にケインジアンだろうか? じゃなかったら本当はマクロやお金のことが分かっていない単なる財務屋なんじゃないのか?

辛辣だ!

恐らくロウに賛同しそうな人物はポール・クルーグマンであり、彼自身がアベノミクスの強い支持者であるこのブログ投稿で、クルーグマンは国債価格が下落することに関する三つの「物語」の概要を述べた。三つの物語のどれも日本の状況に該当しない(長期国債価格は下落、株価は上昇、円は下落)が、「より強い回復」のシナリオには我々が見てきた株価上昇が含まれている。株価上昇は単なるインフレではなく実質経済成長への前向きな期待感を示している(クーはこれを日本株式への投資家と日本国債への投資家が異なった期待をしていると憶測することで説明を切り抜けているが、日本国債保持者がほとんど日本人であり、最近の日本株式市場に流れるのがほとんど海外の資金であることを考えると、これは全く的が外れている訳でもないと私は思う)。

(実のところ私は、ロウ/クルーグマンの話を当初は疑問視していた。私が知るほとんどのモデルは、アベノミクス前のレベルよりも高く金利を上昇させるための回復にしばらく時間がかかると言っている。一般均衡の効果が、日銀の購入増がレートを低く保っているという部分均等の効果を上回るのに数年はかかりうる。ロウ/クルーグマン型の急速な金利上昇を得るには、アベノミクスにより経済が悪い均衡から突然抜け出して、持続的でより高いNGDP成長率に経済がショック療法的に戻るような「よい均衡・悪い均衡」といった種類のモデルが必要であると私は考える。しかしまた、私はこうしたモデルに何らかの信念を持っているのである。そして日本のデフレ停滞は大学院の前期課程で習うような単純なモデルにおいて典型的に可能な時間よりもはるかに長く続いている。おっと脱線した)

まあとにかく……日本の金利レートの実態が、実質経済復活の始まりのせいかどうかは神(天照大神、Amaterasu)のみぞ知る。利回り上昇は一時的なものであり、気まぐれなマーケットや神経質な国債投資家などの期待がなせるトリックであることを願うばかりだ。

どうして私はこんなクレイジーなことを言っているのか?

ニック・ロウが投稿の終りに答のヒントを示しており、以下のように書いている。

そして日本がそれを何年も前から行わずにその全ての年月を浪費し、日本政府の負債GDP比率を上昇させてしまったことには後悔することしかできない。日本経済回復を望んでもその回復に高金利レートが伴うことを望まない理由は、高い負債GDP比率だけではないからである。それは回復の障害となる理由ではない。アベノミクスのようなものをもっと早く行わなかったことは、後悔の理由の一つに加えられることではあるが。

ロウは楽観的でありすぎる。負債GDP比率が非常に高いレベルになれば、レート上昇は破滅的なものとなる。

極端な例を想像してみてほしい。ある国の負債GDP比率が3000:1だったとする。これが全て30年国債だったとすると、毎年政府は総負債額の1/30、言いかえればGDPの10,000%を借り換える必要がある。金利がゼロより少しでも上であれば、政府はほとんどこの債務を維持できない。

そして、金利が突然1%に「正常化」されればどうなるか。翌年、政府は突然借り換えなければいけなかった負債の一部の金利でGDPの10,000%の1%を突然借りていることになる。10,000%の1%は100%に相当し、つまり政府は初年度のみで、国のGDP全額の金利コストを背負うことになる。回復の2年目には、GDPの新たな10,000%を借り換え、したがってGDPの200%を金利コストとして背負うことになる!

これをどうすれば完済できるだろう? GDPの100%に課税することはできない。そこで政府は残りを借りる必要がある。負債GDP比率が高くなるほど、民間セクターが経済成長率よりも低い金利レートで政府に貸し付ける見込みは下がる(「安定的ポンジ・ファイナンス(stable Ponzi finance)」の必要条件:なぜこうなるのかについてはニック・ロウのコメント内の議論を参照)。

その場合、必要な額を政府に貸し付ける唯一の組織は中央銀行だ。言いかえると、シニョレッジがデフォルトを避けるための唯一の選択肢であるということになる。これは金利レートを0%近くに押し戻すか、ハイパーインフレを引き起こすであろう。あるいは、政府は中央銀行に発行済の国債を買ってもらいレートを0%に戻すこともできる。

さて、日本の負債GDP比率は300,000%とはかけ離れている。総負債はGDPの約240%である。でも、金利上昇はなお日本の公的金融に重い負担を強いる。この人物によると、日本国債の利回りが2.2%に増えれば、日本の現在の税収の80%は金利コストで食いつくされてしまう。GDPの240%の負債では、金利コストの大きな上昇を避けるために、金利よりもはるかに高く日本の成長が進まなければならない。

また、金利コストが上昇することはGDPの100%や税収の100%に到達するよりもはるか前に容易に経済を逼迫し始める。なぜか? 財務のケインズ効果があるためである。財務政策が(ほとんどのケインジアンやネオケインジアンがそうであると信じているように)需要に影響するのであれば、より高くなった金利コストを支払うために税金を上げることは、移転や政府調達の削減と同様に経済を停滞させる(上述したように、もちろん上昇した金利コストを支払うために借りることはできる)。だから、最初の回復が即座に高いレートをもたらすのであれば、高くなった金利コストは回復を台無しにするかもしれない。

(さてもちろん、今回は全て、上昇した名目成長は負債GDP比率を浸食しうる。しかしそれが作用するには長い時間がかかる。そして、日本は巨額の財政赤字を被っており、回復が始まったとしてもおそらく負債GDP比率は上昇し続けるのを見ることになるだろう)。

したがって、通貨拡大により金利レートが上昇するような種類の回復しかもたらさないのであれば、日本はとんでもない状況にいることになる。日本の唯一の望みは、金利が非常に長い期間に渡りとても低い状態が続くようなこの種の回復をもたらすことだ。もし日本がニック・ロウ型の世界にいるのであれば、それは不可能であると証明されるであろうが、日本の選択肢は停滞、不履行、またはハイパーインフレのみとなってしまう。代わりに我々はリチャード・クーの世界におり、日本が金利レートを低く維持したまま成長とインフレを促進するような経済政策が取れることを全ての力を振り絞って祈るべきである。

とにかく、この演習問題の全体は、非常に高い負債GDP比率が長期的成長の罠として働きうる可能性を高めるものである。我々はしばしば名目レートで「ゼロ下限」について話すが、非常に高い負債GDP比率はゼロ上限もあることを意味している。もし回復によりレートが(ロウが主張するように)常に上昇するのであれば、高い負債GDP比率により政府は経済が永久に停滞(または不履行/ハイパーインフレ)となることを許すことを強いる。その場合は、激しく中傷されたラインハルトやロゴフが正しいことになる。

もし政府負債が高い状況に陥れば、長期の超低金利と安定的実質成長がクリーンな脱出のための本当に唯一の望みとなる。

アップデート: ポール・クルーグマンが割って入り、私の心配事は確証されていないと言っている。名目レートについて全ての時間考えていたが、ポールは本当に重要なことは本当の数字であると言っている。もし実質金利が低く続くのであれば、全くよいことだ。

アップデート: これについてより考えるほど、この(私の)投稿が明確にしていること以上に混乱させたりや分かりにくくしてしまったことをより確信してしまった。このどこかによい場所があったと思うが、そうすることができなかった。まあいいか。そういうこともある。本件に関するよりシンプルで(私の意見では)よりよいバージョンについては、ブラッド・デロングによるこの簡潔な投稿を参照してほしい。


編集部より:この記事「The Zero Upper Bound?」はノア・スミス氏のブログ「Noahpinion」2013年6月9日のエントリーより和訳して転載させていただきました。快く転載を許可してくださったノア・スミス氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は、同氏のブログをご覧ください。

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