電子行政の姿を決める二つの要点

山田 肇

情報通信政策フォーラム(ICPF)の緊急セミナー「新たなIT戦略を読み解く:電子行政を中心に」を6月11日に開催した。翌12日にも、財務金融の学者・業界人を集めた私的勉強会にゲスト参加し、内閣官房からの出席も得て、議論を深めた。これら会合から、電子行政の姿を決める二つの要点が見えてきた。

第一は、モバイルからのアクセスを中心に据えて電子行政を構築すべきこと。

総務省の2012年末統計によれば、有線系ブロードバンド契約の合計3530万に対して、無線(FWA、BWA、LTE、無線LAN)は合計4344万となっている。有線は家族で共用し無線は個人と利用形態に差はあるが、数だけ比較すれば無線のほうが上回っている。IDCの世界市場調査では、2014年の出荷台数は、スマートフォン・タブレットが14億台で、PCは3億台と予測されているという。国内でも世界でも、モバイルからのネットアクセスが主流となる方向に市場は急速に動いている。


一周遅れ、二周遅れと批判される電子行政だが、先行した国々はPCを主にモバイルを従にシステムを構築してきた。わが国が、モバイルを中心に電子行政を構築すれば、一気に追い越せる可能性がある。ICPFセミナーに登壇した平井たくや議員が、提言に同意したうえで、ホワイトスペースの通信利用を推進すべきと発言されたのは心強い。

第二は、電子行政アプリの開発に民間の力を活かすべきこと。

スマートフォン・タブレットからの利用となれば、使い勝手(ユーザビリティ)が悪ければ、あるいはその前に、目的の行政サービスまでたどり着けなければ(アクセシビリティ)、ますます誰も利用しない状況に陥ることになる。これを避ける魅力的なアプリを政府・自治体が提供できるか疑問である。政府・自治体が「紺屋の白袴」で仕様書を書いてもろくなことは起きそうにない。

政府・自治体の内部システムと電子行政アプリとの接続条件(API)を公開し、APIに則って民間が電子行政アプリの開発を競争するというのが、代案である。ユーザビリティとアクセシビリティに配慮しなければ市場競争に負けることを、民間は身に染みてわかっているからだ。この代案には、国民にとっては利便性が向上し、政府・自治体は経費が圧倒的に削減できる効果がある。

番号法案に対し参議院は「国民の利便を考慮しつつ、より高度な認証システムを採用するなど、安全性と信頼性確保のために万全の対策を講じること」と附帯決議した。安全性と信頼性確保は賛成だが、ガッチガチの公的個人認証をさらに強化し利用するとなれば、民間の経験と知恵が入り込む余地はなくなる。

民間による電子行政アプリの開発競争を促進する際には、安全と信頼といった「正論」でさえ障壁になる恐れがある。オンライン証券取引等では、安全と信頼が確保されたうえで、使いやすいシステムが提供されているというのに。

情報通信に理解の深い国会議員はまだ少ないが、それら議員が「正論」の誤解を解き、政治力を発揮して、新しい電子行政を実現していくよう期待する。

山田肇 -東洋大学経済学部