川崎重工の社長解任劇は企業価値を毀損する茶番 --- 岡本 裕明

アゴラ

川崎重工は長谷川聡前社長ら3人の取締役を解任しました。理由は4月に表面化した同社と三井造船との経営統合案が事前に取締役会で討議されることなく長谷川前社長を中心に独断で進んでいたことを理由としています。

公開されている限りある情報から本件を考えてみたいと思います。


まず、なぜ、取締役会は経営統合案に大きな抵抗を示したのかを考えてみたとき、実に日本的な発想が内在していいるように見えます。理由はズバリ、「足並みが揃わない」からではないでしょうか? 事実、新社長に就いた村山滋社長は統合反対の論理的反対理由を述べていません。また、三井造船のデューデリジェンスを行っている途中でその作業を中止しているわけですから相手側の形が整った詳細情報もなかった上での判断だった可能性があります。

では足並みを揃えることになぜ固執したのかといえば、同社がカンパニー制をとっていることに理由があるかもしれません。同社IRのセグメント情報を見ると最大の航空宇宙事業の18.9%から船舶海洋事業の7.9%まで7つの主たる事業が並んでいます。つまり、この会社の特徴は核となる事業をあえて持たず、それぞれの事業が他事業と一定の距離感と緊張感をもって推進していた感があります。

ところで三井造船といえば2010年4月に天然ガスハイドレート陸上輸送の実証研究を世界で初めて完了させた会社であり、つい先ごろのメタンハイドレードのニュースでも同社が一躍注目を浴びています。つまり、同社には潜在的に高い能力と成長性も持ち合わせており、銀行を含め、客観的には統合は妙味あるものと判断していたと思います。

ですが、川崎重工側は「経営統合」という言葉が気に入らなかった可能性があります。企業規模も3倍違うわけですから本来であれば「買収」の方が耳触りがよかったのでしょう。

次に社長解任動議が非造船部門から出されたということですが、想定される懸念は三井造船と経営統合すれば当然余剰人員が発生し、それが他の事業部門に回される公算がある、しかも造船部門の事業は7.9%から大きく飛躍する可能性があり、取締役会や社内でのポジションが挽回されるということになります。これが許せなかったというのが本音ではないでしょうか?

解任された長谷川前社長としては根回しに失敗したともいえるのでしょう。一方で、もともとそんなことができる体質にない会社であって所属する事業部門の「お山の大将、聞く耳持たず」なので正面突破を図ったとみるほうが正しそうです。

川崎重工といえば中国に新幹線技術を供与したことで日本の同業他社から総スカンを食らったことがありますが、これなどもカンパニー制ゆえの社内競争の弊害がバックボーンだったのではないでしょうか?

個人的には今回の経営統合協議中止、および社長解任はパブリックにネガティブなイメージを植え付けたと思います。また、同社の成長戦略においても疑問を抱かざるを得ません。会社はどこを向いているのか、という点において典型的な日本の閉鎖的企業という印象を持たざるを得ませんでした。

今日をこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年6月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。