【再掲】NOTTVの謎

池田 信夫

NTTドコモの「マルチメディア放送」サービス、NOTTVが来年6月で放送終了するらしい。これは私が2013年の記事で予言した通りなので、再掲しておこう。

NOTTVの使っている周波数帯は、昔アナログ放送をやっていたVHF帯である。それを無理やり2011年に停波したため、電波が余ってしまった。この帯域は普通の携帯端末が使えず、特に送信ができないので、「マルチメディア放送」をやることになった。最初は60社ぐらいが参入を申請した(私もその1社のコンサルをやった)のだが、役所の「一本化工作」で民放連のISDB-Tmmという方式でまとまる方向になった。

ところが外資系のクアルコムは、本国でスタートしていたMediaFLOをこの帯域でやろうとし、「放送局だけでは全国に数百の基地局を建てるのは不可能だ」と主張した。困った電波部は通信業者を引き込もうと、ドコモに声をかけた。このとき2.5GHz帯の美人投票も行なわれており、その枠をドコモがゆずる代わりに、VHF帯をドコモに与えるというバーターを仕掛けたのだ。

ドコモの現場は乗り気ではなかったが、当時の中村社長がこの取引に乗って、「マルチメディア放送」をやることになった。これで決まり、と電波部は考えたが、クアルコムはKDDIを引っ張り込んで、最後まで一本化工作に抵抗した。民主党政権は「オークションでやれ」と言ったのだが、そんなことをしたらバーターの約束を破ることになるので、電波部は必死で抵抗した。

議員会館で公開公聴会まで開かれたが、総務省は粘り、最後は電波監理審議会で、ドコモ=民放連グループに免許を与えることを決めた。これが現在のNOTTVである。そのときドコモは「月額300円で、5年後に5000万台が普及する」という事業計画を出していたが、今ごろやっと100万台だ。

月額料金は420円だから、100万人が払っていたら売り上げは50億円を超えているはずだが、官報によれば今年3月期の売上は11.4億円なので、これは「NOTTV内蔵端末」の数だろう。おかげで営業損失は216億円。株主資本が170億円だから、もう債務超過だ。ドコモの設備コストは当初の申請でも438億円だったから、赤字はまだまだふくらむだろう。

しかし昨年度の営業利益が8372億円のドコモにとっては、438億円ぐらいドブに捨てても大したことはない。それよりこうして電波部に義理立てしたことで、700MHz帯の電波をタダでもらえた。この電波の時価は2000億円以上なので、バーターとしては電波部もドコモも得したのだ。損したのは貴重な電波をタダでドコモに取られた納税者と、これからNOTTVが放送打ち切りになったときの利用者である。

おかげで、あれだけ大騒ぎして停波したVHF帯のほとんどは、いまだに空いたままだ。オークションにかけて普通のテレビ局をつくればいいのだが、民放連が許さないので、貴重なVHF帯は永遠に空いたままだろう。