三保の松原と「日本人の心」 --- 玄間 千映子

2013年06月24日 10:04

これを「快挙」と言わずして、なんと言おう! 三保の松原が世界文化遺産に含まれることになった。

「物理的距離は、心理的距離によって縮めることができる」

遠距離恋愛を思い起こせば、このことは容易に想像が付く。


けれども当事者でない限り、地理的距離にそれを重ねることは思いつきにくい。だから、イコモスの除外勧告を覆すことは無理だと、多くの日本人は思っただろう。しかし文化庁は、ここで「距離には物理的なものもあれば、心理的なものもある」と、距離として測れるものの定義に踏み込んだ。

近藤長官は除外勧告を受け、「目に見えないつながりを重視し、離れていても不可分の一体と捉える日本人との価値観の違いが表れた。価値観の違いはどんどん主張しなければならない」と強調。勧告直後から関係者に電話やメールを駆使して巻き返しを図っていた。

富士山、世界文化遺産に 「日本的価値観」各国が支持
と言うのだ。

物理的距離の中には心で描けるもう一つの距離があり、この目に見えない繫がりを日本では「絆」と呼んでいる。その「絆」という概念は諸外国にある「縁」とか「輪廻」とかというものとは少し違うと、感覚的に日本人は感じていた。しかし、しっくりこないけれども、彼らの概念を流用すれば、それが仲立ちとなって彼らに分かるだろうと考えてきた。

とはいうものの、その違和感を払拭できる説明にはなっていないことを感覚的に日本人は分かっていた。

なぜなら、彼らの腑に落ちる形で「縁」の根拠を何とするのかの説明はしきれないし、現世よりも次世には良い身分で生まれ変わることを願わせることで現世の倫理観を維持しようという「輪廻転生」や「再生」には、多くの日本人の心には陰が薄い。

しっくりこないとは思いつつ、この世界観の違いを上手く説明できずに、手をこまねいていた。三保の松原の除外勧告は、日本人自らが自国の文化を適当に扱ってきたことの結果だ、といってもよいだろう。

だから、多くの日本人は除外勧告を「残念だな」とは思っても「仕方がない」と、思っていたに違いない。にもかかわらず、逆転登録となったのだから「快挙」以外の何ものでもない。

そして同時に、逆転登録の背景を探った記事が賑やかにページアップされているところを見ると、どうやって世界の人々に「日本人の心」を理解させたかに日本人自らが関心を持っているようにも思う。

3.11の大地震の時、世界のメディアは食糧がなくても暴動が起きない被災地の様子、帰宅難民が駅に溢れかえっても整然と電車の開通を待っている人々の姿等々を通じて、被災地と遠く離れたところまで、まさに日本中が被災地と心を同じにしている姿に感銘を受け、世界のメディアは被災状況もさることながらこの「日本の心」に強く興味を覚え、そして各国の人々に「日本の心」を伝えていった。

「絆」という世界観によって秩序だてされている日本での、あの日の日本各地の様子は、「契約」という点と点の関係によって秩序だてられている欧米の、また欧米に占領されたDNAをその風土に持つことで深く思想的影響を受けているアジアやアフリカ、中南米、中近東の国々の世界観には、さぞ異質に映ったことだろう。

3.11の大地震が、奇しくも日本という国の彼らと異なる世界観を世界に届けるきっかけともなっていたことを顧みると、同じように文化庁による逆転登録の素地作りを担っていた、ともいえるのではないか。

今回の三保の松原の逆転登録の一件は、日本文化に誇りを持つ文化庁の方々のお手柄だと思うのと同時に、面倒がらずに努力をすれば世界の人々に「日本の心」を分かってもらえることもできるのだ、ということを日本人自らに示しているように思う。

敗戦後たった40年で世界の第二位の経済力を保持するまでに変貌できた1980年代の日本を世界の中で体感してからの日本は、世界の人々に経済力ではなく「日本の心」を分かってもらう努力を怠ってきたのかもしれない。

3.11の大地震は未曾有の災害を引き起こしたけれども、日本人の心に「絆」という言葉を甦らせ、そして富士山という地震とは切りようのない日本屈指の火山を世界遺産に押し上げ、三保の松原を同時登録へと逆転させるという活動の一念発起へと繋げていった。

「『日本』を取り戻す」とは、現、安倍政権の政治スローガンではあるけれど、実際に取り戻すには一人ひとりの日本人が自国の文化に自信と誇りを抱き、こうした例のように一念発起することが必要なのだ。

今年はまた、「和」とか「絆」といった日本独特の価値観を支える伊勢遷宮の年でもある。国内事象を担う米の坐(くら)から、海外事象を担う金の坐(くら)へのお遷りだ。

富士山と三保の松原は、世界の人々に日本の世界観を伝えるツールになれば良い、と思うのと同時に、日本人自らにとって「日本の心」を思い起こす「場」になればよい、とも思う。

玄間 千映子
(株)アルティスタ人材開発研究所 代表

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