ワークライフバランスが、企業人事における一つのトレンドとなっている。
企業の立場で考えると、社員が「仕事」と「家庭生活・プライベート」を上手く両立できるよう、制度や環境を整えることを示す。育児や介護などへの配慮が代表的で、方向性としては分かりやすいし、取り組みの優劣も比較的判断しやすい。
ところが、働く側の立場から考えた場合、捉え方にバラつきが見られる。
多くの人は、仕事とプライベートを両立できる『時間配分』のことと捉えている。プライベートの時間が確保できるよう、「残業は多くないか」「休みは取れるか」といった発想だ。もし、『時間配分』こそが重要だとすると、9時~5時でキッチリと終わる会社に勤めていれば、ワークライフバランスが実現していることになる。
また、『意識』の問題だと捉える人もいる。時間的には仕事中心の生活を送っていたとしても、その中でプライベートへの『意識』も強く持っているかどうがか重要、という発想だ。『意識』であれば、ハードワークが求められる職場で働いていたとしても、持ち続けることができる。
しかしながら、いずれも十分ではないように思う。そこで、働く側が捉えるワークライフバランスは、『結果』で考えてはどうだろうか。
たとえば、演歌「浪速恋しぐれ」(古い!)に出てくる初代 桂春団治。「芸のためなら女房も泣かす」のだから、時間も意識も一切家庭を顧みない。遊びはするけど、これも芸(仕事)のためだというのだから、仕事にすべてを捧げている。一般的な概念でいうところのワークライフバランスとは、対極にある生き方である。ところが、『結果』で捉えるとどうなるか。
芸人として、顧客からは大人気。所属していた会社(吉本興業)からも、問題児ではあったかもしれないが、スタープレーヤーとして業績貢献度は高い。もちろん、本人も納得した生き方ができている。問題は奥さんであるが、この唄の通りであれば「あなた わたしの生き甲斐」と言わしめるのであるから、夫への満足度は高い。今風に言えば、自らを取り巻くステークホルダー(利害関係者)がすべて満足している状態なのだ。そう、結果主義で考えれば、初代 春団治はワークライフバランスを実現していることになる。
また、大型外航船の船乗りであれば、数カ月は家に帰ってい来ない。このような人たちに、仕事と家庭生活の時間配分をバランスさせましょう、といっても航海中は物理的に無理である。しかし、寄港先ごとで小まめに手紙を出したり、電話することで、家族との信頼関係を維持するこことはできる。乗組員として上司や顧客から信頼され、家族からも信頼され、本人も充実感を感じているなら、時間配分など関係ない。このような職業は、いくらでもある。
逆に、定時で帰るし、休みは多いが、組織や顧客からはたいして評価されず、家に居る時間は長いが家族からは信頼されず、本人の充実感も低い。このような人は、形式的にはともかく、本質的なワークライフバランスを実現しているとは、とても言えない。「そんなの極端だろう」と思われるかもしれないが、こんな人は、意外と少なくないのではないか。
時間というインプットではなく、アウトプットとしての「組織からの満足度」「顧客からの満足度」「家族からの満足度」「関係者からの満足度」そして「自分自身の満足度」。今一度、自らのワークライフバランス実現度を、結果主義で判定してみてはいかがだろうか。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”