富士急の「富士登山鉄道」構想を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

富士山が世界文化遺産に登録されたました。日本といえば「富士」のイメージが強かったことを考えればようやく、という感もあります。嬉しいことです。

さて、富士急行が河口湖駅から富士スバルラインを経由して富士山五合目まで鉄道を延伸させ、最終的には成田からJR経由で直通運転をしたいという発表が先週ありました。富士山が世界文化遺産に登録される可能性を受けての構想だと思いますが、今日はこの点について考えてみましょう。


まず、富士急行が富士山の登山鉄道のような計画を持ったのは今日に始まったものではなく、古くは1960年代からあったもので最近では2008年ごろにもスバルラインを使った鉄道計画を打ち出しています。いずれも許可取得に困難性があったようで計画段階で頓挫しているのですが、今回、文化遺産、入山制限、観光資源開発による世界からの観光客の呼び寄せなどを踏まえ、再度挑戦ということかと思います。

富士急行の計画では既存の有料道路である富士スバルラインを潰してその敷地を使い鉄道にするというものです。個人的には学生時代に仲間と富士スバルラインを自転車で何度か登ったことがあり、思い出深いものがあります。富士急行の売りは冬でも鉄道なら登れるということなのですが。

正直申し上げますと商売としてあまりにもストレートのような気がすること、環境負荷についての懸念、鉄道を敷設する社会的意味合いを考えるとあまり賛同を得られないような気がします。

まず、富士山も登山と五合目までの観光の意味合いではだいぶ違うと思うのですが、五合目までの観光ならばシーズナルなビジネスになるかと思います。霧も発生するし、五合目からの眺望は確かに素晴らしいのですが富士から見る景色より富士を見る景色の方が日本的であると思うのは私だけでしょうか?

次に環境負荷ですが、富士スバルラインを走る車両が鉄道に変わるという点では改善されるかもしれませんが、マストランジットによる五合目付近の観光客急増に対する設備は大きなものになるでしょうからそれに対応する環境対策がどの程度行われるかはポイントになるでしょう。当然、富士登山客が増えることも想定しなくてはいけません。

むしろ、世界文化遺産に登録されれば飛躍的に観光客が増え、スバルラインの交通量も大幅に増加するのですから環境対策としてスバルライン入り口から先はシャトルバスのみのアクセスとするか、プレートナンバーで偶数、奇数で制限するなどの対策を先にとるべきでしょう。

仮に鉄道を敷設する場合ですが、成田からの直行列車という構想からすれば既存車両をそのまま使うということかもしれませんが、私が社長ならいわゆるスイスの登山電車のようなテイストのあるものでより観光客を呼び寄せるような嗜好性が欲しいと思います。もっとも、道中の約30キロにおける景色はあまりなかったと記憶していますのでさほど面白くはないと思いますが(スイスの登山電車や黒部のトロッコ電車のような豪快な景色は期待できないと思います)。

富士急行としてはせっかく富士山が注目されているのにこの機会を逃す手はない、という焦りなのだろうと思いますが、鉄道会社は鉄道を敷設することだけが成長の糧ではないわけですので、もう少しアイディアを出せないだろうか、と思います。

そういえば岩手の平泉にも数年前に行きましたが、いわゆるプレゼンテーションに欠けていると思います。自転車でポイントを廻ったのですが、ただ、それだけなのです。世界遺産という驚きや感動が少ないのは観光するポイントひとつひとつはきちんと整備されているものの全体をうまく統一させて観光客を楽しませる仕組みが欠如しているように思えます。田舎の駅に降り立つとそこには世界遺産の看板はあれどそれ以外はほとんど何もない、というのでは逆に世界遺産が悲しんでしまいます。

幸いにして富士山の周りには観光資源が多く存在します。むしろ、西伊豆では富士山が最もきれいに見える町としての整備を進めているようですが、こちらのほうが評価できるような気がします。外国人向けのプランならばそれこそ、民宿や旅館で日本食や日本酒を楽しみ、温泉や風呂に入り、富士山を楽しませるための工夫をしたら良いでしょう。そのためにも外国語の看板や外国語対応の観光案内所の整備なども進めたほうがより効果的だと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年6月23日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。