政権にやってほしいのは三つだけなんです。 --- 中村 伊知哉

アゴラ

選挙から一晩明けた昨日、参議院議員会館に行ってみたんです。がらーんとしてました。しーんとしてました。でも、二つあるエレベーターホールの一つはもう「引越専用」の札がかかっていて、さあみんな引越だぞ仕様になっていました。落選したひとは3日以内に出て行かないといけないんですと。民主党議員の多いフロアはしばらく賑やかになりまっせ、とのこと。運送業者のみなさま、おめでとうございます。


昨日書いたとおり、V9時代のセリーグ状態となった政界ですけど、既に1強5弱を打破するため、野党は団結して二大政党を再興すべきという論調をみかけます。はあ? 団結? 何をもってでしょうか。他の野党は左だったり右だったりで共通項がありません。対アベノミクスにしろ憲法にしろ政策は一致しません。

「与党になる」ことを共通項にするならば、右も左も飲み込んで「与党である」ことを共通項として組織を作った自民党と同じであって、であれば「自民党に合流する」ことが正解となりましょう。

だから、野党団結で二大政党という大失敗した夢をもう一度より、一度夢と消えた「大連立」を目指す方が野党として戦略的ではあるまいか。こういう時期でなければ達成できない政策を進めるために。野党の中でも政策志向、改革志向の議員はとっとと与党に合流したいんじゃないですかね。ま、与党側が要らないかもしれませんが。

といいますか、長々とすみませんが、そんなことはどーでもいい。政局はどーでもいい。野党がどうなろうがどーでもいい。ぼくは政策屋なので、政策をどうするのか、それだけが気がかりであります。

この政権にぼくが期待するのは一つだけ。「空気を換えて」ということです。失った20年を民主党政権も引きずりました。自民が奪還してからもねじれ下でへっぴり腰でした。でもここから本気で政策展開ができます。この際、長く続く縮み志向から脱出させてほしい。ぜひ「一億総びびり症」の治療をお願いしたい。これも昨日書いたように、今の日本は1930年代初頭の不穏な空気も流れます。それを断ち切りたい。

具体的には三つです。1)成長戦略、2)外交、3)情報化。これだけやってくれれば、ずいぶん変わります。次の総選挙は衆参同時かもしれません。それまでの3年間、この三つだけやっていただければと存じます。

まず、成長戦略。空気を換える第一は経済。その徹底。既にメニューはあります。アベノミクスの名の下にいろいろと掲げられています。問題は、ホントにそれをやるのかどうか。踏み込んで実行するには摩擦も起こります。でも、それを断行すること。

「医療」「農業」「教育」。かつて通信規制など経済規制を緩めた際、安全の名の下に社会規制という岩盤を作りました。それが日本を膠着させています。それら分野の岩盤規制を打ち砕く。大変です。パワーを集中していただきたい。

「税制」。法人税の低さでもって企業を誘致できるほどの環境を整えてもらいたい。「ソフトパワーの発揮」。対外イベントを行うだけなら簡単です。でもインフラや制度を整備するのは大変です。本腰を入れていただきたい。

今のところ成長戦略の多くは政策ではなく「アイディア」に過ぎません。政策は実行されて初めて政策となります。これまでは参院選の対策のためにメニューを並べて看板を掲げていればOKでした。いよいよ頭と口よりも、それを実行する足腰が問われます。

二つ目は、外交。日本は国内のねじれを解消したけれど、対外的なねじれは放置しています。中国も韓国も、自民圧勝に身構えているでしょう。同時に、これから3年はこの体制であることが確定しましたから、それなりに落ちついた戦略も考えているはず。当方もどっしりした対応を願います。

選挙前に、防衛省は背広組からなる運用企画局を廃止し、制服組からなる統合幕僚監部に自衛隊運用を一元化する方針を固めたという報道がありました。海上保安庁の新長官に初めて現場出身者を充てる人事を固めたという話もありました。いずれも小さなニュースですが、政権内部では大きな舵が切られているようにも見えます。ぼくも内部固めはそれでいいと思いますが、対外的にはどう出るのか。

マルチでは、TPP交渉が本格化します。政府は「国益を守る」としか言わないけれど、もう個別具体的に決断していく段階となります。どうするのか。かつての自民党政権であれば、産業、提供者の利益を守れば世間も納得していました。でも今や、提供者よりも利用者の利益を重視しなければいけなくなっています。その際、国益という言葉に何を込めるのか。

外交は、政権にしかできない。お願いします。

三つめは、情報化。やりゃあいいことはハッキリしているので、これこそとっととやりましょう。安倍総理は「世界最高水準のIT利活用社会を」と宣言しました。それを実現してください。

教育の情報化。2020年という民主党政権の目標はとっとと外し、あと3年で「全ての学校でのデジタル教育」を達成してください。できますとも。ネット選挙運動の不思議な制約はとっとと外してください。そしてネットで投票できるようにしましょう。できますとも。いくつかの地方選挙で特区的に試せばよろしい。

オープンデータ。世界ランク19位を3年で1位にしましょう。できますとも。クラウドビジネスを縛っている著作権法。変えましょう。この検討は3年ぐらいかかるかもしれない。じゃあスグ手がけましょう。そして、勢いで「文化省」作ってください。

これだけに集中していただけるとうれしいです。逆に、いらんことはせんでもらいたい。憲法、やらんでいい。集団的自衛権の処理だとか沖縄の基地移転だとか、差し迫った課題には対応してもらいたいですが、憲法は空気を換えてからでいいと思います。あるいは、クールジャパンと口では言いつつ、児童ポルノ法改正で締め付けるような政策ねじれ。やらんでいいことです。大勝して、正体を現したい欲望はあるでしょうが、まずは20年どんよりしてしまった空気を換えることに専念していただきたいと存じます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年7月23日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。