それぞれの道を行く日本の「家電御三家」 --- 岡本 裕明

アゴラ

一時期はどうなるかと思った日本の家電業界。御三家と称されるソニー、パナソニック、シャープはこの数年、もがきながらもそれぞれが抱える問題を一つひとつ潰しながら少しずつその再浮上のチャンスをうかがってきました。折りしも各社の2013年4月~6月の第一四半期の決算が発表になり、三社共通して大幅改善が見られました。多分、メディア各誌も確実に取り上げる話題ですが、一足先に俯瞰してみましょう。


売り上げをみるとソニーが1兆7127億円、パナソニックが1兆8245億円、シャープ6079億円でソニーは前期比プラス18%、シャープ32%増と大きく伸びています。利益についてもソニーが34億円と黒字転換、パナソニックは純利が1078億円と8.4倍に膨れ上がっているほか、シャープもマイナス179億円と前期から87%も改善しています。ただし、パナソニックの場合には年金を確定拠出に移行した特殊要因が798億円ありますからその点は間引く必要があります。

三社をざっと見るとスマホ関連でソニーがドコモのツートップ戦略の恩恵を受けた一方でパナとシャープは苦戦、また、NECはスマホ事業から撤退するなど明暗を分けています。デジカメはソニー、パナ共に苦戦というところです。ソニーの強みは金融部門でそれだけで460億円稼いでおり、セグメントからも圧倒的強みを誇っています。

個人的には三社がそれぞれの道を歩み始めたという印象を強く持ちます。

まず、ソニーはアメリカのファンド、サードポイントから強く要求されている映画、音楽部門の分離上場を真剣に検討、結論を出さなくてはいけません。この四半期の両セグメントの利益は144億円規模です。分離すれば株主からすれば恩恵は大きいかもしれません。サードポイントの目的もそこにあるでしょう。もう一つはまだ日の目を見ないオリンパスとの協業がどう展開するかというところでしょうか?

パナソニックについてはかなり頑張っている気がしますがどちらかというと今だ内向きの整理に徹しているという感じでしょうか? 事実、売り上げは1%増と他の二社に比べ見劣りします。49の事業をすべて黒字にするのが目標とのことですが、これは無理でしょう。49もあること自体が社内の改革途上という気がします。進むべき方向をもっと明白に出さないと出遅れるような気がします。

シャープですが、台湾の鴻海からの出資問題を経て、経営陣の刷新を含め、膿が大分出たのではないでしょうか? このブログでも再三、鴻海とのディールは違う、と指摘してきましたが、そのようにならなくて良かったと思っています。今後はLIXILやマキタに留まらず、さまざまな形での出資要請をしながら経営基盤を安定化させていく戦略をとる気がしております。これは鴻海とのディールを経て同社が学んだことだと思います。個人的には評価しています。

さて、日本の家電に復活があるか、という点で、まだまだ予断を許さないですが、再び、競争できる体制を少しずつ取り戻してきたように見受けられます。ソニーについては多分、めがね型のウェアラブルガジェットをいずれ発売してくるでしょうから、その成果はソニーの開拓精神を問う意味でも楽しみであります。パナソニックは昔から「マネシタ」といわれるほど独自性よりも改良型の利益の出る商品を作り出すことに長けていました。それが社風ならそれを伸ばすのも手で特に新興国などで各国の環境や市場、ニーズに対応した商品を作り出すことで伸ばす余地がありそうです。シャープは社風の一掃が最大のキー。合わせて、もともと高い開発能力を持ち合わせていたのですから潜在能力を引き出せれば再び強みを見せることが出来るでしょう。

メディアや専門家のトーンは「改革半ば」という表現を多用すると思います。私も基本的にはその意ですが、そのネガティブな言い回しより「再浮上に向けてまい進中」という表現をとりたいと思います。各社とも経営陣はこの1年で大きく交代、いよいよ成果が出始めるところです。巨大戦艦はそう簡単には方向転換できないものですが努力の跡は良く見えます。今後に期待したいところではないでしょうか? 我々外野も批判するより応援する姿勢に変わることが大事ではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。